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患者登録の手法や倫理委員会の承認などに虚偽ありと判断
Lancet誌がMMRと自閉症の関係を示唆した論文を抹消

 10年以上にわたって物議を醸していた1本の論文が、Lancet誌から消えた。同誌の編集者たちは、2010年2月2日、この論文をLancet誌の掲載記録から完全に抹消するとの声明を発表した。

 問題の論文は、Lancet誌1998年2月28日号に「Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children」とのタイトルで掲載された(アブストラクトはこちら)。英London大学のWakefileld氏らが、London大学Royal Free and University College Medical Schoolの小児消化器部門に紹介された、慢性腸炎と退行性の発達障害を示す小児を連続的に12人(平均年齢6歳、11人が男児)登録し、侵襲的な方法も用いて調べた結果を報告したものだ。

 論文によると、12人は、それまでは健康で発達も正常だった。12人に見られた腸の障害は、回腸のリンパ小節過形成やアフタ様潰瘍などで、11人は慢性炎症と判定された。行動異常については、9人が自閉症、1人は崩壊性障害と診断され、残る2人はウイルス感染後性脳炎または予防接種後の脳炎の可能性例と考えられた。

 Wakefield氏らは、このうち8人の小児について、腸の障害と行動異常の発生はMMRワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン)接種後だったと述べ、小児のこうした疾患とMMRワクチン接種の関係をさらに調べる必要がある、とまとめていた。

 この論文は、英国その他の国におけるMMRワクチン接種率低下の主な原因と言われ、公衆衛生に大きな影響を及ぼした。その一方で、Lancet誌には様々な疑惑が寄せられた。

 Lancet誌の編集者であるRichard Horton氏は、この論文について同誌2004年3月6日号で声明を発表、「Wakefield氏らは同誌の方針に沿った情報公開を怠った」と非難した。 

 Horton氏によると、98年の論文に対する主な疑惑は以下の6点だ。

(1) 侵襲性の高い検査を行うことについて倫理委員会の許可を得ていない。

(2)この試験自体は倫理委員会の承認を得ておらず、25人の小児を対象とする別の研究に対する承認の下に行われた。

(3)病院に紹介された小児を連続的に登録したと書かれているが、実際には著者のうちの2人が直接参加を呼びかけた患者だった。

(4)小児患者はLegal Aid Board(法律扶助委員会)のパイロットプロジェクトの対象者でもあった。このプロジェクトはワクチン有害事象の被害者による訴訟を有利に進める目的を持っていた。著者らはこれをLancet誌に告知しなかった。

(5)研究データはLancet誌に公開される前に弁護士の手に渡り、訴訟の正当化に利用された。

(6)Wakefield氏はプロジェクト実施に際し、Legal Aid Boardから5万5000ポンドの資金を得ていた。このプロジェクトとLancet誌に掲載された論文の対象患者は多くが重複しているため、この金銭的な利益相反について告知すべきだった。

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