日経メディカルのロゴ画像

脳死移植を感情論のみで語る限り、移植は増えない

2010/02/05
津久井宏行

 以前にこのブログで、2009.7.1「脳死移植と満員電車の関係」と題して、書かせていただきました。そのとき「日本にはdonationという文化が根付いていないので、たとえ臓器移植法改正A案が施行されたとしても、脳死移植症例数が増えることはないのではないか」との考えを書きました。その後、日本臓器移植ネットワークによる「第11回東日本支部 臓器提供・移植症例検討会」が昨年12月初旬に仙台で開催され、私も参加してきました。

 検討会では、積極的に臓器提供を増やそうと頑張っている東日本の3施設(東京医科大学、北里大学、聖マリアンナ大学)の医師、看護師の方々が発表しました。これら3施設では様々な工夫をしており、大変勉強になりました。同時に、再び「どうして日本では脳死移植が増えないのか」を考えるきっかけになり、以下の3つのポイントが思い浮かびました。

 1点目は、「日本では、脳死移植ドナー家族への臓器提供の意思確認作業を、ついさっきまで、その命を救おうと必死にやっていた医師や看護師が担っている」ということでした。

 そもそも、脳死移植ドナーは、最近まで元気に生活していた患者さんであることが多いため、ご家族に臓器提供の話を切り出し、理解を得ることは、とても繊細な過程であり、知識と経験が必要とされます。アメリカでは、脳死判定が行われると、そこから先の家族との話し合いは、それを専門とする組織の担当者が担っていました。

 しかし日本では、現場の医師、看護師が担っているのです。つい先ほどまで、何とか救命しようと懸命にやっていたのに、一旦、脳死の可能性が高くなると、ドナーになっていただくことをお願いするのです。これは、現場の医師、看護師にとって、あまりに酷なことではないでしょうか。

 2点目は、臓器移植を受ける患者本人やその家族からの働き掛けの少なさです。以前、ある患者さんに海外渡航移植の話をした際に、患者さんのお兄さんから「もっと、日本でも移植ができるように、病院側が臓器提供に働き掛けをしてほしい」というリクエストを受けたことがあります。

 患者さんやその家族が移植医療の専門家でないことは重々承知ですが、日本で臓器移植の実施件数を増やすためには、医師や医療機関はもとより、臓器移植を受ける患者本人やその家族からの働き掛けが最も大事ではないか、と感じています。この発想は、極めて非日本的といえるかもしれません。確かに、“親方日の丸”の日本で生活していると、知らず知らずのうちに「難しいこと、大変なことは、すべて国が、企業が、大組織がやってくれる」という意識が形成されるように思います。私も以前はそうでした。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

この記事を読んでいる人におすすめ