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カナダへ臨床留学する、という選択

2010/02/08
堀越裕歩

 私が海外への臨床留学を考えたのは、小児感染症の臨床をきちんと勉強したいと思ったとき、日本国内で適当なプログラムが見付けられなかったからです。臨床を学ぶために留学するとなると相当の言語能力が必要で、だから英語圏以外はちょっと考えられず、そうすると主な対象国はアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなどになります。

 アメリカの医師免許試験では「基礎医学」が出題されますが、医学生時代の試験は常に一夜漬けで乗り切ってきた脳みそに、それについての知識はほとんど残っておらず、できれば避けたいというのが正直なところでした。そのとき思い浮かんだ国がカナダです。カナダの医師免許試験では「基礎医学」がほとんど出題されないからです。カナダに臨床留学をしていた医師が周りに何人かいたことも、決意を後押ししてくれました。

カナダへの臨床留学の前に、MCCEE
 まずは、何を準備したらよいのかというところから調べ始めることになりました。日本からカナダへ臨床留学する人は少ないため、情報がほとんどなかったのです。どうやらMCCEE(Medical Council of Canada Evaluating Examination)という試験を受けるらしいということで、取りあえずそれに出願しました。

 MCCEEは外国医学部の卒業者に課せられる試験(カナダの医学部を出ていれば免除されます)で、内科、外科、精神科、小児科、産婦人科、予防医学、公衆衛生などの臨床系の問題が選択式で出題されます。「基礎医学」も若干は問われますが、ほとんどが臨床に関連付けられた問題です。受験は、東京にあるカナダ大使館ですることができました。日本で常勤小児科医として働きながらの受験だったので、時間を何とか工面しながら3カ月間くらい必死で勉強したものです。

 この試験内容は臨床系の問題が中心なので、日本の医師国家試験レベルの知識があれば、あとは日本と違う点(精神科の薬の名前や産科の避妊法など)を押さえて準備すれば大丈夫だと思います。カナダの保健統計を覚える必要もあるでしょう。試験に合格すると、カナダの医学生などを含めた合格者の中で、自身の成績がどのくらいの位置にあるかということまで教えてくれます。

熾烈なポジション争い
 MCCEEに合格した私は、小児感染症フェローシップのプログラムを探し、カナダ国内の7カ所の施設に連絡を取りました。ところが、返事が来たのは3カ所だけだった上に、うち1カ所からは「向こう数年間、ポジションは用意できない」と言われ、もう1カ所はモントリオールにあったのでフランス語が必要だと思い至り、手続きを進めることはしませんでした。

 そのため、面接まで漕ぎ着けたのは1カ所だけで、正直とても焦っていました。「試験にさえ受かれば何となる」くらいに甘く考えていたからです。このとき、以前に先輩から教わっていたことを思い出しました。「よいポジションを見付ける方が、試験に受かるよりずっと大変だ」。医師免許試験は受かって当たり前の試験で、その合格者の間で繰り広げられる「よいプログラムでのポジション競争」こそが本当の戦いなのです。

著者プロフィール

堀越 裕歩

トロント小児病院 小児科感染症部門・クリニカルフェロー

2001年昭和大学医学部卒業。沖縄県立中部病院(インターン、小児科レジデント)、カンボジアの小児病院で医療ボランティア、国立成育医療センターの総合診療部等を経て、2008年7月より現職。東南アジアにおける小児国際医療協力・研究、新潟県中越地震の際の緊急支援などに従事。趣味は、スノーボード、野球とサッカー観戦。トロントでもフットサルで活躍中。

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