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私は、3月でがんセンター院長を辞めます

2010/03/11

 私はこの3月一杯で辞表を出すつもりです。私が退任を決めたのは、新理事長に嘉山孝正先生が決まったときでした。嘉山先生は私よりも年下ですし、彼がやりにくくて困るだろうと考えたのです。

 「新しい酒は新しい皮袋に」という言葉があるように、“新生がんセンター”を立ち上げるに当たっては、人心を一新して新たな計画を考えるべきでしょう。病院長の任期はあと1年残っていますが、私が人事を行ってしまうと、引き継いだ方がやりにくいと思うのです。もちろん、現時点で病院を最も知っているのは私ですから、再生への協力は惜しみません。

 いずれにせよ、税金を投入する国民が納得できることを、嘉山先生の決断の下で行うべきです。あと、この病院に足を踏み入れたこともない役人が口を挟むのを許すような真似だけは、絶対にしないでほしいと思います。

自己評価は65点、大掃除が終わっていない
国立がんセンター中央病院院長として、これまで行ってきたことに対する自己評価は65点です。例えば、世間を騒がせた麻酔科医不足の問題については、人数を集めることはできました。ですが、来ていただいた麻酔科の先生方に気持ち良く働いていただく体制は、まだまだできていません。

 以前おられた麻酔科の先生方が、緩和ケアを行うためにがんセンターを去られたのは間違いありません。ですが「麻酔をかけている際の外科医の態度が悪い」ともはっきりと伺いました。「麻酔科医を手足のようにこき使う外科医が多すぎる」というのです。雰囲気のいい職場ならば、もう少しは残っていただけたのではないでしょうか。

 少なくとも私が現場にいたときは、そのような外科医はいませんでした。もっと現場で指導すべきだったと後悔しています。この点については、嘉山新理事長に引き継ぐ前に“大掃除”をし、刺し違えてでも、辞めてもらうべき人には辞めてもらおうと思っています。

 また、今の副院長、小菅智男先生には感謝しています。魑魅魍魎が集まる世界で、年上の部長にいじめられながらよく耐えてくれました。彼がいてくれたおかげで、私は対外的な働きかけに時間を割くことができましたし、それでがんセンターが独立行政法人化する際の債務負担を減らすこともできました。

 先ほどの話の続きになりますが、小菅先生をいじめていた部長たちを整理してから辞めないと、私は腹の虫がおさまりません。医師同士でも信頼がなければ、的確な医療はできません。「ヒポクラテスの誓い」さえ守れない医師がいるのは非常に不愉快です。そんな医師を排除できなかったのが、私の反省点です。

著者プロフィール

土屋了介(癌研究所顧問)●つちや りょうすけ氏 1970年慶応義塾大学医学部卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2010年3月まで国立がんセンター中央病院院長。 同年4月より現職。

連載の紹介

土屋了介の「すべて話そう」
医学教育や医療提供体制などに造詣が深く、超党派による「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」では医療顧問も務めるなど、政治とのパイプも太い土屋氏が、日本医療の将来に向けた私論を展開します

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