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「ついうっかり」では許されないミスもある
(2010.3.26訂正)

2010/03/26

 あってはいけない単純ミスが、次々に報じられています。

 一つ目のミスは、警察庁が管理するDNAデータベースに誤情報が登録され、危うく冤罪が生じかけたという話です。今年の1月、神奈川県横浜市の飲食店で女性がバッグを置き引きされる窃盗事件が起こりました。犯人のものと思われる遺留物でDNA鑑定をし、その結果をデータベースで検索したところ、ある男性の型として登録されているものと一致しました。

 神奈川県警旭署は、目撃情報やDNA鑑定の一致という結果を基に、男性の逮捕令状や家宅捜索令状を取り、自宅捜索を行うとともに、男性を任意で取り調べました。しかし、男性は否認を続けるばかりでした。

 そこで、男性から任意提出を受けた検体のDNA鑑定を実施したところ、これがなんと2年前の交通事件の際にデータベースに登録された男性のDNAの型と全く異なっていたというのです。どうやら、別人のデータが、検体取り違えなど何らかの原因で誤登録されていたようです。

 現在、冤罪で再審請求して話題になっている菅家利和さんのケースは、DNA鑑定の同一性判定能力やその真偽をめぐって議論がなされているわけですが、このケースはそれ以前のレベルの単純ミスによる誤認です。

 検体の取り違えやデータの打ち込みミスは、DNA鑑定の技術がいくら進歩しようと起こり得る間違いで、このようなことが冤罪を引き起こすとすれば、これまた非常に怖ろしい事態です。

 DNA鑑定などの技術のない、血液型鑑定などが重用されていた時代でも、「捜査員の故意か過失か、血液が遺留物に事後に付けられた疑いが強い」といった弁護人の弁論をよく耳にしました。どんな精緻な科学技術も、適切なプロセスの下、その確実性、真正性が確保されなければ非常に危険であり、まさに両刃の剣という性質を持ちます。

 次に紹介する二つ目のミスは、法と医療の狭間で活動する公立機関での重大なミスです。

 3月7日、東京都監察医務院で、解剖不要と判断された75歳の男性が、誤って行政解剖に付されていたことが発覚しました。警視庁城東署に安置されていた別の84歳の男性の遺体と取り違えられて監察医務院に搬送されたため、間違って解剖されてしまったのです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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