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ふつうの人たちの勝利―米国ヘルスケア改革の可決
細田満和子(ハーバード公衆衛生大学院国際保健学部リサーチ・フェロー)

2010/03/29

ヘルスケア改革法案の可決
 国民皆保険という、多くの国で当たり前となっている制度を作り上げることを、アメリカにおいては、トルーマン大統領が構想して以来、歴代の民主党と何人かの共和党の大統領たちが75年の長きに渡って奮闘してきましたが、ずっと実現できずにいました。

 ところが、3月21日の夜、やっとこの闘いに終止符が打たれることになりました。昨年12月に通過したヘルスケア改革法の上院案が、下院でも219対212という僅差で可決されたのです(219の賛成票はすべて民主党議員。反対票の内、共和党議員は177。32人の民主党議員も反対票)。これは歴史的な偉業であると、テレビや新聞など各種メディアは伝えています。

年末からの動き
 ヘルスケア改革への道は、オバマが大統領になって以来、障害の多い困難なものではありましたが、着実に前進していました。昨年(2009年)11月には、下院でヘルスケア改革案が220対215の僅差で承認されました。その後12月24日には上院で、8,710億ドルの予算を確保しつつ、ヘルスケア改革案が通過しました。

 ただし上院案は、パブリック・オプション(政府による公的保険)を含んでいない点で下院案と大きく異なりました。また、共和党に配慮するために、母体に危険が及ぶ際の中絶に対しても公費が使われないことを認めています。

 年明けの2010年1月になるとすぐさま、上院案と下院案をすり合わせる交渉が行われました。そして民主党内の保守派の支持を失わないために、下院案に含まれていたパブリック・オプションは最終的に削られるという見込みになりました。

 ところがこのように妥協したのに(したがため)、1月19日のマサチューセッツでの補欠選挙では、ほとんど無名の共和党議員が当選して、民主党は上院の議席を失うことになってしまったのです。この議席は、ヘルスケア改革に文字通り生涯をかけてきたテッド・ケネディが昨年8月に亡くなるまで47年間守ってきたものでした。これによって、民主党は上院の絶対多数を失うことになり、ヘルスケア改革の行方はまたもや不透明になってしまいました。

共和党の猛反撃
 ヘルスケアに対する共和党の反対は、昨年秋以降かなり激しいものがありました。共和党には特にヘルスケア関連の法案というのはありませんが、国に義務とされない範囲で、適正な価格の健康保険が広がることが望ましいという考えは持っているといいます。

 それでも共和党は市場よりの考えを持っているので、現行の制度である、雇用者が被雇用者の健康保険の一部を負担することや、低所得者向けのメディケイドという公的保険が拡大されることにも反対しています。すなわち、雇用者が被雇用者に健康保険を提供すべきという制度は改めるべきだし、メディケイドは将来的に大きな負担となるので現状のまま、もしくは縮小できないものかと考えています。

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