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特集●CT検査の発癌リスクを考える Vol.3
被曝のリスクを患者に説明していますか?

 放射線被曝から人体を守る原則は、「行為の正当化」「防護の最適化」「線量限度の適用」―の3つにまとめられる。

 CT検査の場合、「正当化」とは、CT検査のベネフィットが被曝のリスクを上回っていること。「最適化」は、目的(例えば病気の診断)が合理的に達成される(診断に必要な画質が確保できる)範囲で、CT検査に伴う被曝量をできるだけ減らすことを意味する。

 3つ目の「線量限度」に関しては、入院患者の被曝線量が3カ月に1.3mSvを超えてはならないという決まり(医療法施行規則第30条の19)がある。ただし、施行規則には「診療により被曝する放射線を除く」との但し書きが付いており、検査や治療に伴う被曝の線量限度には現行法令上の決まりがない。「正当化」と「最適化」がなされている限り、線量に限度を設けることは、患者にとってかえって不利益になる可能性があるという解釈だ[1]。だからこそ、「正当化」と「最適化」はしっかり確保しておく必要がある。

 非常に大まかには、「正当化」は医師の役割、「最適化」は放射線技師の役割といえるだろう。

 「最適化」に関する最近のトピックは、小児の被曝に関するものだ。小児科領域でもCT検査の利用が増えているが、小児は成人に比べて放射線に対する感受性が高いので、成人と同じ条件で撮影すると被曝線量が成人の2~5倍に増えてしまう。2005年に日本医学放射線学会、日本放射線技師学会、日本小児放射線学会は共同で、小児CTガイドライン-被ばく低減のためにを公表し、具体的な撮影条件を示した。

 また、日本放射線技師会は、医療被ばく低減施設の認定を行っている。同会の定める基準を守り、被曝量の低減に取り組んでいる施設が対象で、認定第1号は横浜労災病院(横浜市港北区)。だが、認定施設は全国でわずか20施設(2010年3月時点)にとどまっている。

 一方の「正当化」についてはどうか。医師にとっては、CT検査をオーダーする以上、ベネフィットがリスクを上回ることは明らかであり、ことさら「正当化」を意識することはないかもしれない。CT検査を受ける患者にとっても、検査により自分の病気が正確に診断され、適切な治療が受けられるなら、将来なるかもしれない癌を怖がるあまりにCT検査を受けないでおくという選択は考えにくい。

5割弱の臨床医が「患者の被曝線量や人体への影響についての知識がない」
 ただし、それは、医師、そして医師から説明を受けた患者が、CT検査のベネフィットとリスクをきちんと評価できていることが前提だ。

 だが、日本放射線公衆安全学会が同学会所属の臨床医、放射線科医、放射線技師らを対象に2005年に実施した調査で、「あなた自身は放射線検査を受ける患者の被曝線量や人体への影響についての知識を持っていると思いますか」と尋ねたところ、「ほとんど持っていない」「まったく持っていない」の合計が、臨床医では47.1%に上っていた(放射線科医は4.8%)[2]。さらに、「放射線検査のリスクを患者に説明していますか」と尋ねたところ、「ほとんど説明していない」「全く説明していない」の合計が71.4%だった。これで本当に「正当化」がなされているのか、心もとなく思えてくるデータだ(図1)。

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