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訪問看護システム・MCA・コンティニュア対応機器による連携システム---セントケア・ホールディング
IT化で訪問看護の業務負担軽減とサービスの質向上を目指す

2010/03/30
増田克善

 訪問介護・看護・グループホームなど、ヘルスケアサービスを総合的に提供するセントケア・ホールディング。同社は2009年7月から、訪問看護業務の標準化と業務効率の向上を目指して、IT技術やIT機器を訪問看護サービスに順次導入している。訪問看護支援システム、ヘルスケア向けモバイルPC、コンティニュア・ヘルス・アライアンス(注)の規格に対応した健康管理機器を利用している。同社は全国28拠点で訪問看護サービスを展開しているが、その中から先行して各種IT機器の利用を開始した訪問看護ステーション三鷹(東京都三鷹市)を取材した。



●訪問看護に特化したアセスメント・診断をシステム化

 一般的に看護の過程として、(1)看護アセスメント(患者の健康問題、潜在的な問題などの情報収集・評価)、(2)看護診断(収集した情報の分析による問題の特定)、(3)看護計画(特定された問題解決のための行動計画)、(4)看護介入(目標に向けた看護行為や患者の自己努力)、(5)看護評価(アウトカム評価・看護計画見直し)、の5段階がある。しかし、訪問看護業務に特化したアセスメント~診断の過程は体系化されていなかった。
 

執行役員 事業推進部部長 兼 訪問看護事業部部長の岡本茂雄氏

 「在宅医療は、患者さんが日常生活を送るという視点が重要であり、自宅の環境を考慮したうえで、看護アセスメントを実施する必要があります。そこで、まず訪問看護に特化したアセスメント・プロトコルを確立して、診断のプロセスを標準化することが必要でした。看護師によって経験やスキルは異なりますが、誰が訪問しても60点以上の看護ができるようにすること――それが訪問看護支援システム「看護のアイちゃん」の狙いです」――セントケア・ホールディング(以下、セントケア)の執行役員 事業推進部部長兼訪問看護事業部部長の岡本茂雄氏は、訪問看護アセスメント・プロトコルの開発経緯をこう説明する。

 岡本氏によると、当初からシステム化を前提にプロジェクトを進めたという。訪問看護に特化した新アセスメント手法は、名古屋大学医学部基礎看護学講座教授の山内豊明氏と同社が共同開発。メディカル・データ・ビジョン(MDV)が「看護のアイちゃん」としてシステム化する一方で、ASPサービスとしても提供している。

 同システムのアセスメントの特徴は、大きく2つある。1つは、「呼吸」「代謝」といった生命維持の仕組みと、「トイレに行きたい」「入浴したい」といった生活の仕組みの2つの側面からアセスメントが可能なこと。在宅での利用を想定し、生活実態に合わせたアセスメントができるように工夫した。もう1つは、アセスメントプロセスをフローチャート化し、主要な問題領域を自動的に絞り込む機能があること。看護計画の基本プランの候補を選定する際に、非常に有用な機能である。看護師は、提示される基本プランや項目を状況に合わせてさらに選択・追加することで、標準的な看護計画を効率良く策定できるという。

 「当初、新人看護師や仕事のブランクがある看護師に役立つと想定されましたが、ベテラン看護師に役立つケースも多いことが分かりました。ベテランは、経験と過去の看護診断手法にしばられる傾向があります。システムと自分とで判断が異なるケースもままあるのですが、そうした場合もう一度検証するというステップを踏むため、慣れによる質の低下を防ぐ作用があるのです」(岡本氏)と、システムによるアセスメントプロセス標準化の効用を指摘する。
 
●過程の可視化で標準的な看護のクオリティを確保

 訪問看護支援システムの導入は、実際の現場で看護師の意識の変化やケアレベルの質の担保に寄与している。通常、看護師は1人で患者宅を訪問してアセスメント、看護診断、ケアを行う。状態が変化している患者に対したとき、看護師は自らの判断が適正であるか不安を持つこともある。また、訪問する看護師は毎回異なるケースも多いため、前回の看護記録だけでは診断やケア内容が、どのようなプロセスを経て選択されたものか分からないことが多いという。
 

訪問看護ステーション三鷹の管理責任者を務める臼田志緒氏

 看護師で、セントケア東京 訪問看護ステーション三鷹の管理責任者を務める臼田志緒氏は、現場での変化をこう述べる。「訪問した日のお客様(患者)の状態を具体的に理解しているのは、その日に担当した看護師だけです。しかし、看護カルテに記録された結果では、その判断やケアに至った看護師の思考過程が見えないのが実状です」。不安を抱きながら判断した、あるいはケア表に従って漠然と実施してきたとしても、結果に問題がなければケアが適正だったと解釈するしかなかった。

 しかし、看護のアイちゃん導入以降は、アセスメントプロセスがフローチャートで視覚化されたことで頭の中で整理でき、意識しながら問題領域の特定ができるようになると同時に、優先順位を明確にして看護計画を立てられるようになった。「お客様の情報を共有するにしても、過去の訪問看護師の思考過程が見えるので、きちんとした根拠に基づいた情報の共有が可能になりました」(臼田氏)

 システムによる看護過程の標準化が、業務効率と質の向上に結びついた例もある。例えば、排便コントロールがうまくいっていない患者に対して、ある看護師は週2回浣腸すればいいと判断していた。しかし「主体的な排便についてのアセスメントを試してみたら、そのお客様には薬で定期的に排便できるようにすることが最良、という結果が出ました。その結果に従ったところ、浣腸がなくなった分、ケア時間を1時間短縮できたため、訪問件数を1件増やせました」と、セントケア・ホールディングの訪問看護事業部企画役の吉村奈央氏は説明する。
 
●MCAとコンティニュア対応バイタル測定機器で業務を効率化
 

タフブックCF-H1

 訪問看護ステーション三鷹では、以前訪問看護支援システムを営業所内に設置したデスクトップPCで運用していたが、看護の現場でシステムにアクセスして利用できるよう、パナソニックの「タフブックCF-H1」(以下、CF-H1)を先行導入した。CF-H1は、インテルが提唱するヘルスケア市場向けプラットフォームであるMCA(Mobile Clinical Assistant)に準拠し、医療現場での頻繁な使用に堪えうる強固な筐体と、WiFiやBluetooth、RFID(Radio Frequency IDentification)による無線通信機能、バーコードの読み取り機能、ペン入力、指紋認証センサー、内蔵カメラなど、ヘルスケアの現場におけるモバイルPCに必要な機能を実装している。

 セントケアが採用したモデルは、広域無線ネットワーク機能としてNTTドコモのFOMA HIGH-SPEEDに接続可能な通信モジュールを内蔵したもの。看護師は、この通信機能を利用して、各訪問先からデータセンターの訪問看護支援システムにアクセスしている。
 

「看護のアイちゃん」の操作画面。フローチャートをたどっていく構造になっている

 
 
 

「看護のアイちゃん」のデータ入力画面。基本的に専用ペンで入力するが、コンティニュア対応の血圧計や体重計からは自動でデータ入力も可能

 
 

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