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特集●中医協委員・関係者が語る「2010診療報酬改定」 Vol.5
伸び率はわずかでも、プラス改定の影響は大きい
中医協委員(全国公私病院連盟副会長) 邊見公雄氏

――2010年度改定の議論を振り返って、全体的な感想を聞かせてほしい。

邊見 総選挙、内閣改造、中央社会保険医療協議会(中医協)委員の改選などの影響で、例年よりも2カ月弱遅れてのスタートだった。その分、日程的にはタイトで大変だったが、昨年末にプラス改定になることが決まったため精神的には楽だった。後発品のある先発品の薬価の追加引き下げ分などを考慮すると、実質改定率は医療費全体で0.03%。ただ、わずかだとしても改定率がプラスだったことは大きい。

 今までの政権は医療費削減というバックギアばかり入れてきたが、今改定ではニュートラルからローにわずかにギアチェンジした。次回、セカンド、サードとシフトアップして、安定走行に入るのではという希望を持たせた。遭難した人に、爆音を聞かせ、救助機が来たことを知らせられたという意味でも、大きな意義があったと思う。

――改選された委員は、中医協の議論にどのような影響を及ぼしたのか。

邊見 いずれも医療の現場を良く理解している上、所属する組織の意向に縛られず、現場を重視して発言していた。鈴木邦彦氏は地方のケアミックスの中小病院の代表として、嘉山孝正氏は大学病院という特定機能病院の代表として、現場に基づいて自らの意見を述べていた。診療側はいずれも一個人として発言したため、時には診療側を敵に回して、支払い側の意見に賛成する委員もいた。背後から鉄砲を撃たれるようなことは、これまでの中医協だったらなかっただろう(笑)。

 一方、支払い側の新人委員は真面目すぎた印象がある。所属組織の意向を重視して、個人としての意見を発言しなかったように思う。

病院への手厚い評価や再診料の一本化は政権交代の影響が大
――全体に、診療所よりも病院を重視した改定となった。

邊見 日本の診療報酬は、内科、無床診療所が医療の中心だった時代の体系を引きずってきた。当時は外傷や感染症が疾患の中心だったが、今やその中心は癌や心臓病など、入院が必要なものに替わっている。手術にも高度な技術が求められるようになり、救急も24時間の対応が必要だ。晩婚化や出産年齢の高齢化、不妊治療による多胎の増加などで周産期医療も難しくなった。しかし、診療報酬では、病院が中心となって行うこうした医療を十分に評価してこなかった。

 今や、病院を救わなければこの国の医療は崩壊する。多少遅くはなったが、今改定で病院を重視する方向が大々的に打ち出されたのは素晴らしいことだ。医療安全対策やチーム医療の評価も一層進んだ。委員の改選、入院に大きな財源を付けたこと、病診の再診料を統一したことなど、政権交代の影響は極めて大きい。

――入院基本料の一律大幅引き上げを主張したが、叶わなかったことについてはどう考えているか。

邊見 長引く不況、失業率の高止まり、深刻化するデフレ、健保組合の解散の増加――。今のような時期に一律引き上げというのは極めて難しい。

 確かに一律大幅引き上げは達成できなかったが、現実的にはかなり達成されたと考えている。一般病棟入院基本料の14日以内の期間の加算が428点から450点へと引き上げられた。現在、病院の平均在院日数の平均値が15、16日程度であることを勘案すると、100床の病院でも年間700万円近い増収となるはずだ。

 また、医療経済実態調査の結果、最も経営状況が厳しかった10対1については、一般病棟看護必要度評価加算の5点が新設された。一般病棟入院基本料の14日以内の期間の加算と合わせて考えると27点のアップとなり、300床の病院であれば3000万円近い増収となる。

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