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「診療報酬引き上げ」の公約は絵に描いた餅
多田智裕(武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科)

2010/06/21

 ※この記事は世界を知り、The hottest OPINION site in JapanJBpressからの転載です。

 いよいよ参議院選挙が迫ってきました。

 5月24日、民主党が参院選の公約として「2012年度改定で診療報酬の引き上げ」を掲げる、という報道がありました。医師不足や医療過疎の解消には、医師らへの一層の支援が必要だと判断したとのことです。

 しかし、この報道をよく読むと、参院選公約には「引き上げ幅などを示さず、予算編成時の財務状況を見て決める」との文言が付いています。さらには、医療産業を雇用創出のための成長分野と位置づけ、「メディカルイノベーション」のための予算も付ける方向のようです。

 見出しだけ見ると「診療報酬の引き上げを民主党が公約に明記」ということなります。しかし、この公約ではとても医療崩壊を食い止めることはできないでしょう。

財源確保の議論なしでどうやって診療報酬を引き上げるのか
 鳩山首相は1年前の衆議院選の前の党首討論で、「診療報酬を2割ほど上げないと(医療崩壊を食い止めるのは)厳しいと感じている」と述べました。

 本当に医療崩壊を食い止めようと考えていて、診療報酬をOECDの最低ランクから平均レベルに向けて2割引き上げようとしているのであれば、実行するのは簡単です。普天間基地の移設問題のように代替地を一生懸命探したり、米国や地元住民や市長や知事たちとの対話を何度も繰り返す必要もありません。「1点=10円」と設定されている診療報酬を、単純に「1点=12円」にするだけです。政府機関お得意の通達1本ですむことです。

 しかし、2010年度の診療報酬改定は2割アップどころか、マイナス改訂を食い止めるだけ(実質プラス0.03%)でした。これは、子供手当の月2万6000円の実行を見送ったのと同じく、財源の確保ができなかったからです。それなのに、民主党が掲げようとしている公約では、「医療財源をどう確保するか」という方策が全く見えてこないのです。

診療報酬をアップするだけで雇用創出効果は絶大
 また、「メディカルイノベーション」と称して、医療周辺分野への投資予算を付けることは心地よく聞こえます。しかし、これは「ばらまき」に近い形 でお金を消費するだけになるでしょう。

 既存の医療を立て直さずに「医療を成長産業に」と言ってみても、それは絵に描いた餅に過ぎないのです(関連コラム「『医療を成長産業に』なんて夢のまた夢」もご参照ください)。

 実は、そんなことをしなくても、医療機関の診療報酬を2割アップするだけで、雇用創出効果は絶大なものになります。政府が予算を使った際に、その予算額よりも国民所得が大きく拡大することがあります。これを「乗数効果」と呼ぶそうです。子供手当の場合は、半分近くが貯蓄に回ってしまう可能性が高く、乗数効果は1以下です。つまり、支出額を下回る額しか消費は拡大しないと予測されています。

 では、医療費を増額した場合はどうなのでしょうか?公的な診療報酬を手厚くすれば、乗数効果は公共投資と同様に1を大きく超えるはずです。

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