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グラルギンを用いたインスリン導入は、低血糖の不安を増すことなく良好な血糖管理が可能

2010/06/29

オランダ・VU University Medical CenterのTibot RS Hajos氏

 2型糖尿病患者にインスリン治療を開始するにあたり、インスリングラルギンを用いた場合、「低血糖に対する恐怖感があることにより、患者自身による良好な血糖管理を妨げる」といった懸念は無用のようである。また、低血糖に対する恐怖感が強い患者は、若年で低血糖発作の経験があり、糖尿病関連症状の悩みが大きく、情緒面での健康状態が不良、といった特徴があることも明らかになった。6月25日から29日まで米オーランドにおいて開催されている第70回米国糖尿病学会学術集会(ADA 2010)において、オランダ・VU University Medical CenterのTibot RS Hajos氏(写真)らが発表した。

 多くの2型糖尿病患者は、その治療経過の中でインスリン治療を避けることはできない。インスリン治療でもっとも懸念すべき副作用は低血糖だが、患者にとっては厳格な血糖コントロールを目指して頑張っていること自体が、低血糖に対する恐怖感を惹起している可能性がある。また逆に、低血糖に対する不安感が、患者の健康状態に悪影響を及ぼし、自己管理を悪化させる可能性もある。

 Hajos氏らは、2005年から2009年にかけて、オランダのプライマリケア363施設で管理されているインスリン未治療の2型糖尿病患者1021人を対象とし、Hypoglycemia Fear Survey, worry subscale(HFS-w)を用いて低血糖への恐怖感が強い「High Fear群」54人、恐怖感が少ない「Low Fear群」966人の2群に分け、グラルギンによるインスリン治療を開始、両群間における有効性や低血糖の不安に関する影響などを検討した。HFS-wは13項目での低血糖に対する恐怖感を、0(恐怖感なし)~100(恐怖感大)にスコア化するもので、試験開始時の平均HFS-w+SDの2倍より高スコア(HFS-w≧47)の患者を、High Fear群とした。

 担当医の判断により試験開始時点で、超速効型インスリンアナログ(28.3%)や、経口血糖降下薬を単剤(51%)、2剤(46%)、3剤(1%未満)を併用されていた。

 3カ月後、6カ月後における評価項目は、HbA1c値、空腹時血糖値(FBG)、自己申告による3カ月間の症候性と夜間、そして重篤な低血糖発作の回数とした。それに加えてDSC-r(改訂版The Diabetes Symptom Checklist)スコアによる糖尿病による症状に伴う悩みに関する指標、WHO-5(The WHO-5 well-being index)を用いた情緒面での健康度、およびHFS-wスコアも評価した。

 試験開始時のHFS-wスコアは、全例で14、High Fear群で62、Low Fear群11であった。6カ月後において、High Fear群のHFS-wスコアは、Low Fear群に比べて有意に改善していた(p<0.001)。またHbA1c値に関しては、High Fear群でもLow Fear群とほぼ同様に改善が認められた。これらの結果から、インスリングラルギンによる血糖値改善効果は、低血糖に対する恐怖感に悪影響を与えないこと、また逆に、インスリン開始前の低血糖に対する恐怖感は、血糖値改善の妨げにはならないことが示された。

 試験開始時点の患者背景によりHigh Fear群の特徴(対 Low Fear群)をみると、若年(58歳 対 63歳、p=0.033)、過去3カ月間に症候性低血糖(4.9回 対 2.5回、p=0.033)や、重篤な低血糖(0.18回 対 0.05回、p=0.009)の発作をより多く経験していた。また、糖尿病による症状に伴う悩みがあり(DSC-rスコア30 対 15、p<0.001)、情緒面での健康度も低い(WHO-5スコア41 対 57、p<0.001)、ことが明らかになった。

 Hajos氏は、こうした患者は少数派であり、日常臨床においては、これらの特徴を把握し十分な注意を払うべきとの見解を示した。

(日経メディカル別冊編集)

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