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新規アルドース還元酵素阻害薬が糖尿病網膜症・神経症に有効な可能性

2010/06/28

自治医科大学附属さいたま医療センター眼科教授の梯彰弘氏

アルドース還元酵素阻害薬(ARI)は、グルコースをソルビトールに変換するアルドース還元酵素の働きを阻害し、糖尿病性合併症の原因となる細胞内へのソルビトール蓄積を抑制する。新規ARIのラニレスタットが糖尿病性網膜症と神経症を抑制するかを、糖尿病発症モデルラットで確かめた動物実験で、同じくARIのエパルレスタットに対し、より有効性が高い可能性が示された。自治医科大学附属さいたま医療センター眼科教授の梯彰弘氏(写真)らが、6月25日から29日まで、米オーランドで開催中の第70回米国糖尿病学会学術集会で発表した。

 梯氏らは、糖尿病自然発症モデルのTorii(SDT)ラットを用いた。6群を用意し、ラニレスタット群(0.1、1、10mg/kg;それぞれn=7、n=8、n=7)、エパルレスタット群(100mg/kg;n=8)、対照群(非治療SDTラット、n=9)、健常群(SDラット、n=8)に分けて、長期(40週)にわたって経過を観察した。

 糖尿病性網膜症は蛍光顕微鏡造影、白内障は成体顕微鏡で評価、神経症は運動神経伝導速度(MNCV)で判定し、網膜、水晶体、坐骨神経におけるソルビトールとフラクトースの濃度は、糖尿病発症15週目と40週目に測定した。

 40週後、対照群では9匹中7匹で糖尿病性網膜症を発症したが、ラニレスタット群では1匹も発症せず、有意に発症が抑制されていた(p<0.01)。エパルレスタット群では8匹中2匹が発症、非治療対照群との間に有意差は認めなかった(p=0.09)。

 白内障は、健常群では発症なしだったのに対し、対照群では全眼発症だった。ラニレスタット群は量反応関係を伴って、白内障発症を有意に抑制した。特に高用量群は全く発症しなかった。エパルレスタット群は全眼発症し、白内障の抑制効果はみられなかった。

 神経障害の程度を示す運動神経伝導速度を各群で比較すると、健常群では55m/秒超だったのに対し、対照群は約40m/秒前後に低下していた。これに対し、ラニレスタット群では、0.1mg/kg群で約45m/秒、1mg/kg群で約47m/秒、10mg/kg群では約53m/秒で、対照群に対し、量反応関係をもって、いずれも有意(p<0.01)に改善していた。エパルレスタット群も約45m/秒で、対照群に対し、有意に改善していた(p<0.01)。

 次に、網膜と水晶体におけるソルビトールの蓄積を比較したところ、網膜では、健常群だけが約0.1nmol/g、他の各群はいずれも0.5-0.6nmol/gだったが有意差は認められなかった。水晶体では対照とエパルレスタット群が2nmol/g程度でほぼ差がみられなかったのに対して、ラニレスタット群では3-6nmol/gとむしろ非治療群より高い傾向がみられた(有意差なし)。

 神経におけるソルビトール蓄積は、健常群の約0.3nmol/gに比べて対照群は約2nmol/gと有意(p<0.01)に高く、ラニレスタット群は用量の少ない順に約0.6、約0.5、約0.5nmol/gで、いずれも対照群に対して有意に低かった(高用量群のみp<0.01、他はp<0.05)。エパルレスタット群は約2nmol/gで対照群と有意差はなかった。

 研究グループはこれらの結果から、新規ARIのラニレスタット群は、糖尿病発症モデルのSDTラットで、糖尿病性の網膜症と神経症を、量反応関係をもって有効に抑制し得たとした。一方、ソルビトール蓄積で臨床所見と相反する結果が得られたことについては、「あくまで推測だが、糖尿病非治療群やエパルレスタット群では網膜細胞の剥離などが起こり、正確な測定ができなかったためではないか」(梯氏)としていた。

(日経メディカル別冊編集)

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