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【第5回】
アスピリン喘息にも使える消炎鎮痛薬はありますか?

2010/06/22
田巻弘道、岸本暢将、岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科〔成人、小児〕)

研修医 先生、最近救急外来で診た患者さんのことでご相談してもいいですか?

指導医 今回はアレルギーですか? それとも膠原病?

研修医 アレルギーです。先日の夕方に救急外来にいらした30代半ばの女性患者さんなんですが、婦人科を受診した後に出勤する途中、電車の中で突然鼻が詰まり始めて、息苦しくなってきたそうです。途中の駅で下車して、タクシーで救急外来にいらっしゃいました。

指導医 なるほど。どのように治療したのですか?

研修医 バイタルサインは少し頻脈気味でしたが、それ以外は安定していて、聴診すると全肺野にwheezeが聞こえました。喉や唇の腫れはなく、皮疹もありませんでした。ネブライザーでサルブタモールを吸入していただいて、症状がすっかり良くなったので、喘息発作と診断して帰っていただきました。

 ただ、その後、患者さんが電車に乗る前にロキソプロフェンを飲んだと言っていたのを思い出して、ひょっとしてこれは通常の喘息ではないアレルギーなんじゃないかと…。

指導医 問診では何かほかに聞きましたか?

研修医 ロキソプロフェンは初めて飲んだようです。今まで飲んだことはなかったとおっしゃっていました。喘息は、以前カナダに住んでいたときに、喘鳴のような症状が出現したことがあり、しばらく吸入薬を使い、その後は落ち着いていたようです。

指導医 そうですか。鼻炎の症状はどうですか?

研修医 鼻炎…? それは聞いていません。どうして鼻の症状を聞くんですか?

指導医 この患者さんはAspirin-exacerbated respiratory disease(AERDアスピリン喘息)なのではないかと思いましてね。アスピリン喘息は、副鼻腔炎、特に鼻茸がある人に多いのですが、単なる鼻炎の症状だと思っている人もたくさんいます。

研修医 アスピリン喘息って、アスピリン以外でも起こるんですか?

指導医 もちろんです。アスピリンだけでなく、COX(シクロオキシゲナーゼ)-1阻害作用のある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であれば症状は起きます。典型的には、アスピリンやNSAIDsの内服後に、鼻の症状と喘息様症状が出てきます。アナフィラキシーのように皮疹や消化器症状が出ることはまれです。

研修医 COX-1阻害作用のあるものには交差反応があるということですね。これってアレルギー反応なんですか?

指導医 症状はI型アレルギーの症状と似ていますが、いわゆるI型アレルギー(IgEを介した機序)とは異なった機序で起きていますので、I型アレルギーのような皮疹、消化器症状といったものはあまり現れません。AERDの機序はまだ完全には解明されていませんが、アラキドン酸の代謝においてシクロオキシゲナーゼ活性が阻害されることで、ロイコトリエン系の産生が過剰になって起こると考えられています。ですので、分子構造が全く違うNSAIDsでも、同じように起きます。

研修医 なるほど。

著者プロフィール

本連載は、聖路加国際病院アレルギー膠原病科の岸本暢将(きしもと みつまさ)氏、田巻弘道(たまき ひろみち)氏、岡田正人(おかだ まさと)氏らが中心となり執筆します。

連載の紹介

【臨床講座】非専門医のためのリウマチ・アレルギー診療Update
リウマチ膠原病・アレルギー領域は、新しい治療法の開発が盛んで、診断基準も見直されるなど、目まぐるしく変化しています。この領域の診断法、治療法を、最新の話題を交えながら分かりやすくお伝えします。

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