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初代理事長決定!がんセンターはどう変わるか

2010/02/05

 今年4月から独立行政法人化される国立がんセンター(4月から国立がん研究センター)の初代理事長が、山形大学医学部長の嘉山孝正氏に決定しました。私と嘉山先生とのお付き合いは、舛添要一・前厚生労働大臣の「安心と希望の医療確保ビジョン具体化検討会」の場でご一緒させていただいたのと、1度山形大学で講演をさせていただいたときに、意見交換をしたくらいです。

 まだその程度の面識なのですが、嘉山先生に対する印象は、「かなり進取の気性があり、停滞していた山形大学の改革に意欲的に取り組んでいる方」という感じでしょうか。国立がんセンターが現在置かれている環境を考えると、山形大学が法人化したときのご経験やその後の経営手腕などは非常に頼もしく、大変ふさわしい方だと思います。

 もっとも、国立がんセンターをを改革するには、山形大学の場合と違って日本全体を見渡す必要があります。その中で全国のモデルとなってセンターを運営していくことが求められるので、これまで嘉山先生が行ってこられたことと、違う質の手腕が要求されることになると思います。嘉山先生はそのような応用力を十分お持ちだと思いますが、馴染むまでは少し時間が必要でしょう。

 おそらく、厚生労働省は新たな国立がん研究センターの中期経営計画について、「4月までに用意しろ」というでしょうが、ずれ込んでもいいのではないでしょうか。

 新生がんセンターは、「国立がん研究センター」として組織も変わることになるので、私は、慎重にやった方がうまくいくのではないかと思っています。国民のためにより良い癌の研究センターにするためには、ある程度時間をかけて国民に見える形で説明をして、粛々と実行していくことが非常に大事ではないかと思います。

 もちろん、嘉山先生も“机上の方針”はすぐに示せるでしょう。ただし、それは国立がんセンターの現状を実際にご覧になったときに、修正が必要になると思います。マスコミは、すぐに「マニフェストを!」と言うけれど、マニフェストはどうしても机上の空論になりがちです。現実を見据えた上で修正は当然あるわけです。

 国立がんセンターについても、外から見て「おかしいのではないか」と思っていたことが、中に入って現場を見渡してみると、意外に理にかなっていると思える点があるかもしれません。あるいは逆に外から「がんセンターはいいな」と思っていた部分が、中へ入ってみたら、「もっといいやり方があるのではないか」と思うかもしれません。それに気が付くには、数カ月はかかるでしょう。

 嘉山先生がここの実情を知る前に作り上げた計画を金科玉条のごとく実行することとしたら、民主党の今のマニフェストと同じように、うまくいくはずもないですね。

 山形大学にもたくさんの残務処理あるでしょうから、フルに国立がんセンターを把握する時間を取れるとはとても思えません。がんセンター全体を見渡して、ご自身なりの分析や聞き取りをするのに2~3カ月かかり、その後実行という流れになるのではないでしょうか。

著者プロフィール

土屋了介(癌研究所顧問)●つちや りょうすけ氏 1970年慶応義塾大学医学部卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2010年3月まで国立がんセンター中央病院院長。 同年4月より現職。

連載の紹介

土屋了介の「すべて話そう」
医学教育や医療提供体制などに造詣が深く、超党派による「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」では医療顧問も務めるなど、政治とのパイプも太い土屋氏が、日本医療の将来に向けた私論を展開します

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