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特集●中医協委員・関係者が語る「2010診療報酬改定」
小幅でも、診療報酬が上がったことには不満がある
中医協委員(健康保険組合連合会常務理事) 白川修二氏

──2010年度の診療報酬改定の議論を終えた感想は。

白川 全体的に時間がない中で、ドクターフィーの導入や医療行政に対する要望など、最初は中央社会保険医療協議会(中医協)での議論の対象ではない課題にまで内容が及び、どうなることかと思った。だが、途中からは中身の濃い議論となり、最終的には無事にまとまって安堵している。

 「中医協の診療側委員から日本医師会の役員が外れ、議論の進め方が変わったか」とよく聞かれるが、私はそうは感じなかった。日医の役員が中医協委員だったとしても、果たして再診料の報酬などに関して一歩も引かずに反対を主張し続けられただろうか。最終的には、公益委員による裁定で同じ結果になっただろう。その意味では、診療側委員が入れ替わったことで議論や結果が変わったとは思っていない。

──印象に残っている議論は。

白川 厚生労働大臣への改定率に関する意見具申を中医協としてまとめられなかったのが残念だ。委員間で意見統一が図れず、診療側と支払側の両論を併記する案が検討されたが、最終的には診療側の反対で提出できなかった。それぞれの立場で考えが異なっているという事実も重要なのだから、ぜひ大臣に伝えるべきだったのではないだろうか。

財務省の意向に左右され過ぎた
――改定の全体的な方針について、診療側は報酬の全体的な底上げを主張する一方で、支払い側は予算配分の見直しを求めていたが。

白川 支払い側は、財源の問題から報酬の全体的な底上げに反対していたわけではない。国民の所得が下がっているのに、医療費は自然増分だけでも年3%上がっているのだから、報酬アップの環境にはないと考えたのだ。

 昨今、医療が崩壊しているとよくいわれるが、私たち支払い側は崩壊しているとは思っていない。日本の医療制度はレベルが高く、依然として貧富の差に関係なくどの医療機関にも受診できる。確かに、一部の地域や診療科に関してはすぐに手を打たなければならないと思っているが、それは報酬の配分見直しや税金の投入などで手当てすべきだ。このため、小幅とはいえ診療報酬が上がったことには不満がある。

 医療を取り巻く課題が多岐にわたる中、どこをどのように改善して、そのためにはどのくらいの財源が必要なのか、そして、ほかの政策も勘案して診療報酬では何について重点的に手当てするのか――。議論を進める上での大前提がはっきりしていなかったので、中医協で話し合っていても釈然としない部分が少なくなかった。

――しかし今改定では、疲弊が目立つ病院や勤務医対策に対して重点的に報酬配分ができたのでは。

白川 開業医と勤務医の給与格差の是正などを求めた行政刷新会議の「事業仕分け」など、中医協とは違うところでの議論が改定に多少影響した面がある。その一つが、政府によって「入院」と「入院外(外来)」別の改定率が設定された点。本来、こうした予算枠の配分は中医協で議論すべきことだ。診療側委員の安達秀樹氏が「財務省の意向が改定率にかなり反映された」と憤ったのは理解でき、私も決定過程がおかしいと感じた。

 ただ、「入院」に手厚い財源が割り振られた点については評価している。救急医療の立て直しや勤務医の負担軽減などに焦点が当たり、今後、ある程度の効果が表れることを期待している。

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