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医療制度改革のヒントを探る

第11回
医療機関のフラグメンテーション

2010/08/03
ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)

 日本の医療では、患者の費用負担は治療内容が同じならばどの医療機関でも基本的には同じである。同じ治療に関しては、全ての医療機関が同レベルの治療を提供できる、ということが前提となっているのである。ところが昨今、本来全国で均質であるべき医療の質にばらつきが生じていることが問題になっている。さらには、相対的な差のみならず、絶対的な医療の質のレベルが問題視される事態も起きている。

 それらの背景を分析したところ、医療の質に影響を与える因子として、いくつかの仮説が考えられる。なかでも、以下のものが特に影響力を持つと考えられる。

■日本では中小規模の医療機関が大量に存在し(フラグメンテーション:fragmentation)、個々が質を向上するだけの一定規模に達していないケースが多い。このことが医療の質の向上を困難にし、質のばらつきを招いているのではないか。
■医師の専門分野が十分に絞り込まれていないことが、質のレベルにも影響しているのではないか。一例として、専門医の認定制度が、先進諸外国に比べて緩やかな点を挙げることができる。
■新医療技術(薬剤も含む)の導入(注:第5回で議論した、追加の財政負担を国民に求める際に、負担と引き換えに提示できる重要なベネフィットの一つ)もまだハードルが高く、日本の医療全体の質の向上に影響している。

 以下で、それぞれの仮説について検討を試みる。

(1)医療機関のフラグメンテーション
 日本では、中小規模の医療機関が多数分散して存在している。医療機関の数を先進諸外国と比較すると、日本における1病院当たりの人口、および全ベッド数に対する人口の割合は、最も集約化の進む国に比べて5分の1から4分の1というレベルである。

著者プロフィール

ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)●オックスフォード大学にて経済学修士・博士号取得。1995年より日本在住。2001年マッキンゼー入社。アジア諸国(主に日本)でのヘルスケア分野を主に担当。

連載の紹介

医療制度改革のヒントを探る
マッキンゼーが、日本国内の医療制度について2008年末に独自にまとめたレポート「医療制度改革の視点」の内容を順次紹介していきます。ぜひ一緒に考えてみてください。本連載の意義と目的については、こちらをご覧ください。

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