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チーム医療を円滑に進める「提案」の極意

2010/08/05
前田幹広

 近年、薬剤師レジデンシーの競争率が激化していく中、私は1年目のレジデンシー(post-graduate year 1;PGY1)をフィラデルフィアにあるテンプル大学病院で行うこととなりました。私が学んだノバ・サウスイースタン大学のある常夏のフロリダから1000kmも北に位置するフィラデルフィアに引っ越しです。

 少し時間に余裕があったので、大きな家具などを引っ越し業者に持って行ってもらい、私自身は車でI-95という高速道路をフロリダ州からペンシルバニア州まで2泊3日でひたすら北上しました。湿地帯であるフロリダ州から起伏に富んだペンシルバニア州まで景色が段々と変わっていき、アメリカの大きさを実感する旅になりました。

ステファニー・コンスタンテさんとの大きな出会い
 PGY1の内容は薬学一般で、各レジデントは学生実習と同様に内科、集中治療、感染症、外来クリニックなどの異なる分野を1カ月ごとに学んでいきます。ここで大きな出会いがありました。外科集中治療室の実習で指導薬剤師だったステファニー・コスタンテさんです。

 彼女は外科集中治療室の専門薬剤師として20人の患者を担当しており、医療チームからも絶大な信頼を得ていました。薬物療法のスペシャリストとして、薬に関して医師・看護師からのコンサルトを受けたり、薬剤師の視点から治療に対して様々な提案を行ったりしていました。大学病院のICUでの回診が初めてだった私にも、様々なことを手取り足取り指導してくれました。私にとって、集中治療の面白さを教えてもらい、この分野に進むきっかけを作ってくれた人です。

 集中治療室の患者はほとんどが重篤であり、抱える問題は複雑です。服用している薬の種類も多く、取っ付きにくいというのが当時の私の本音でした。ところが、集中治療の基礎である鎮静薬、鎮痛薬、敗血症などのマネジメントを彼女から学んでいくうちに、その複雑性が逆に面白くなり(考えてみれば、複雑だからこそ薬剤師が医療チームの中で果たせる役割が多くあります)、「私も何とかして患者を助けたい」「私も医療チームの一員なんだ」という感覚が芽生えてきたのです。

診断はできない薬剤師が伝える情報
 彼女が教えてくれたことは様々あります。中でも大変勉強になったのが、「薬剤師が治療に対して提案を行う際、言い方やタイミングには気を付けなければいけない」ということです。

 ある日の夜間、抗菌薬のリネゾリドを服用している患者に対して抗うつ薬のアミトリプチリンがオーダーされた結果、血圧上昇、心拍数増加、体温上昇、硬直などがみられました。セロトニン症候群を疑った私は彼女に相談しました。そして、アミトリプチリンの投与を中止した方がよいという結論に至り、回診時にチームに伝えることになりました。

著者プロフィール

前田 幹広

メリーランド大学医療センター・集中治療専門薬剤師レジデント

2002年東京理科大学薬学部卒業。2008年ノバ サウスイースタン大学薬学部International Pharm.D.課程修了。テンプル大学病院(臨床薬学一般レジデント)勤務を経て、2009年より現職。趣味はスキー、音楽鑑賞、旅行。

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