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1年ぶりのベルリンで、日本の心臓外科の将来を憂う

2010/08/06

 6月下旬に、ドイツ・ベルリンで開かれたInternational Society of Minimally Invasive Cardiac Surgery (国際低侵襲心臓手術学会)に出席しました。1年ぶりのベルリンです。

 学会では、低侵襲心臓手術MICS)の盛り上がりに、ちょっと冷水を浴びせかけるようなセッションがありました。タイトルは、「MICSの現状と役割」。

 この30年における心臓血管の治療において大きな転換点となったのは、間違いなく冠動脈カテーテル治療です。まず、1990年ごろに、PTCAが始まりました。当時は、急性心筋梗塞には外科手術が一般的でしたが、20年経った今、ヨーロッパではステント留置術が第1選択肢になりつつあります。日本では、10年前ぐらいからその傾向が顕著です。

 冠動脈カテーテル治療は、循環器内科の守備範囲です。つまり、心臓外科の活躍の場は、以前に比べればだいぶ狭くなりました。さらに、後述するように、心臓外科の“十八番”とも言うべき弁置換(機能の低下した僧帽弁や大動脈弁を切除し、代わりに人工弁を置換する開胸手術)まで、その将来が危ぶまれるようになっています。学会のセッションでは、「メスをかざして『これがスタンダード』なんて偉そうに言っている場合ではなく、(外科医がこれまで軽視していた)血管内外科治療分野にも目を向けるべき」と訴える声がありましたが、全く同感です。

TAVIが循環器内科主導でいいのか?
 さて、弁置換の領域に新しい風をもたらし、心臓外科の足元を脅かしているのが、TAVI(transcatheter aortic valve implantation)という手技です。カテーテルを使って機能の低下した大動脈弁を壊し、代わりの人工弁を押し込むもので、開胸手術を伴いません。侵襲性が低い重症患者にも適用できるこの術式は欧米を中心に広がっており、ここ数年、学会でもその成績発表が目立っています。今年の学会では既に、治療概念の見直しやフィードバックが話題になりました。

 つまり、旬のセッションだったのですが、その中でスイス・チューリッヒ大学心臓外科教授のVolkmar Falk先生が、米国などでこれまでの冠動脈カテーテル治療の延長としてTAVIを行っている現状を厳しく批判しました。カテーテル室でのTAVI手技中の致死的事故について言及され、循環器内科主導では対処できないことを強調されていました。

 日本では最近ようやく、3施設でTAVIの治験が始まりました。ただし、そのうち2施設では、循環器内科医の主導で治験が行われていると聞いています。その旨を彼に説明すると、「大丈夫?米国みたいなことにならないといいけどねぇ」と心配され、器材を提供している企業にも少々問題があることを示唆されました。いずれにせよ、この術式に関してもまた、いつもの通り日本は後発です。循環器内科、麻酔科、心臓外科による学会レベルでTAVIに関する委員会を設立し、欧州のように基準を設け、細かくフィードバックしながら普及に取り組む必要性を強く感じます。

連載の紹介

昭和大元教授「手取屋岳夫の独り言」
「最近の日本の医療って、ちょっとおかしくない?」…と愚痴は出るものの、医師という仕事はやっぱり素晴らしい!一外科医として、大学教授として、教育者として感じた喜び・憤り・疑問などを、時に熱く、時には軽〜く、語ります。

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