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ワクチン・ギャップを解消できるか?問われる政府・与党の覚悟
高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長)

2010/08/11

議論の基礎、科学的知見は整った
 7月7日の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会では、国立感染症研究所が取りまとめた9つのワクチンに係るファクトシートが提出された。当該ファクトシートはワクチンごとに、対象疾患の基本的知見、予防接種の目的と導入により期待される効果、ワクチン製剤の現状と安全性について取りまとめたもので、予防接種政策を論じる科学的な基本となる資料といえる。

 ファクトシートは、当日参考人として出席した国立病院機構三重病院名誉院長の神谷齋氏が述べたように、基礎研究者と臨床家が同一のテーブルで科学的知見に基づき議論し見解をまとめる初めての取り組みにより生み出されたものである。「これが初めての取り組みだったと聞いて衝撃を受けた。当然に研究しているものだと思っていた」と黒岩祐治委員が驚きの言葉を漏らしたように、もっと早い段階で取り組まれるべき事柄でもあった。本来取り組まれているべき事柄が長きに渡り為されていなかったことが、20年ともいわれるワクチン・ギャップの大きな要因の一つである。

 また、政府の要請から一カ月足らずで取りまとめるという荒業であったが(関係された方々の努力に心から敬服して止まない)、神谷氏が指摘されていたように、時間的にも人的・資金的にもより十分な環境を与えられてしかるべき事業だ。今回は付け焼刃的な対応と指摘せざるを得ないがしかし、宮崎千明委員が「これが完成ではなく、これからも更新されていくもの」と確認したように、ファクトシートの検証と検討、改定は続いていく。今後は恒常的に同種の取り組みが継続される仕掛けを整備する必要があるだろう。

歴史を覆すか、繰り返すか
 まだまだ改善の余地が少なくないファクトシート作製であるが、ひとまず、予防接種政策を論じるための基礎となる科学的知見が取りまとめられたことになる。議論の前提が整ったのだから、次は政策的に予防接種を論じる段階だ。そして、この議論に臨むにあたり、政府と与党・民主党の覚悟が問われることになる。

 予防接種部会の命題は「予防接種行政の抜本的改革」である。抜本的改革とは、すなわちワクチンギャップ20年の解消であり、ワクチン後進国からの脱却である。このことは、大いなる覚悟を政府・与党に要請する。何事にもいえることであろうが、大いなる変化を短時間で為し得るのは容易ではなく、時として改革の途中で易きに流れてしまうこともある。ワクチン・ギャップの歴史も例外ではなく、課題や困難に正面から向き合わず、易きに流れ続けた20年であった。ワクチン・ギャップを解消できるのか、歴史を繰り返すのか、今まさに政府・与党の覚悟が問われる局面を迎えているといえよう。

 7日の予防接種部会のヒアリングにおいて、被接種者の立場として私は「ワクチンを定期接種化しないことで生じる被害者の存在にも目を向けて欲しい」と訴えた。予防接種行政の歴史において、接種後の健康被害に関心が集まることはあっても、ワクチン接種を行っていれば防げたはずの被害が注目されることはあまり無かったと感じているからだ。

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