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さい帯血移植システムの脆弱性
中村利仁(北大大学院医学研究科 医療システム学分野助教)

2010/08/12

 最近、宮城さい帯血バンクの経営危機が報じられています。全国のさい帯血移植システムを統合する何らかの仕掛けと、さい帯血移植の診療報酬点数の倍増が必要であると考えます。

 自分はもともと北海道の田舎の病院で一般外科をやっていました。さい帯血移植は全くの専門外です。移植自体について議論する識見に欠けています。移植そのものではなく、その周辺について考えてみたいと思います。

 産経新聞では、5月21日付でさい帯血バンクの経営危機を報じています(【ゆうゆうLife】臍帯血バンク存続危機 赤字拡大 宮城で表面化)。また、週刊誌『女性自身』8月10日号に『「さい帯血バンク」がつぶれる!?』という記事が掲載されました。この記事ではさい帯血バンクを巡る状況の厳しさが詳しく紹介されています。特に経営状況が厳しいのはNPO法人宮城血バンクで、懸命の経営努力や募金活動等にもかかわらず、存続の危機にあるそうです。

 さい帯血バンクは全国に11カ所あり、さい帯血バンク・ネットワークという組織が存在しています(日本さい帯血バンクネットワークのHPはこちら)。

 しかし、さい帯血バンク・ネットワークは「さい帯血バンクが保存するさい帯血の情報を共有し」、患者さん達のために「情報の一元管理」を行う組織です。性質の異なる運営母体による緩やかな連携組織であり、そこには、全体を統合するガバナンスと言い得るような機能は何も存在していません。経営情報を共有したり、互いに経営支援したりするための組織でもありません。

1.赤字の続く北海道臍帯血バンク
 札幌市の閑静な住宅地に北海道臍帯血バンクを設置する日本赤十字社北海道血液センターがあります。北海道臍帯血バンクもまた赤字経営です。同バンクから開示された平成21年度の概算収支では、支出合計5,410万円に対して、国庫補助が4,030万円、医療機関等からの収入(同年度の移植34例のさい帯血管理費、移植前検査費等)が820万円となっており、およそ560万円の単年度赤字が発生しているそうです。

 北海道臍帯血バンクは、日本赤十字社の血液事業本部の関与もなく、設置されている北海道血液センター内の独自事業となっています。そして、発足以来、平成19年度を除いてずっと単年度赤字が続いています。関係者の方に状況を伺ったところ、累積赤字は既に約3700万円にまで積み上がっているものの、あと10年ほどは何とか持ちこたえられるだろうというお話でした。言うまでもなく、血液センターの他の事業による収益が、バンクに投下される形で支援が行われているであろうことが想像できます。単独事業であればとうの昔に経営に行き詰まっているところです。

 そして、直近の収支改善のためには、現在1例17万4千円の医療機関からの支払いがほぼ倍額になれば、単年度赤字は解消出来る見込みとのことです。なお、この金額は厚生労働省によって全国一律で金額が決められています。

2.バンク相互の競合関係
 もう一つの問題は。さい帯血バンク同士での競合関係が存在することです。さい帯血の提供を受ける医療機関との間、そして、移植を実施する医師・医療機関を巡って、互いに競合関係にあります。平成21年度では、年間移植数では228例と京阪さい帯血バンクが先頭を走っている状態です。ただし、保存数では東京臍帯血バンクが6089と、京阪さい帯血バンクの1,809の約3倍の水準です。臍帯血移植全体で見れば年率5%程度の増加が続いていますが、さい帯血バンクの間には、成長に大きな格差が存在しています。

各バンク別さい帯血供給状況

各バンク別さい帯血保存公開状況

 中でも宮城さい帯血バンクと神奈川臍帯血バンクが伸び悩んでいることが明らかであると考えます。

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