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NEJM誌から
一般人によるCPR、胸骨圧迫のみと人工呼吸併用の間にやはり差なし
2件の大規模無作為化試験の結果

 一般人が心肺蘇生CPR)を行う場合、人工呼吸は必要なのか。人工呼吸を行うことによって胸骨圧迫が中断されるが、不利益はないのか。米国とスウェーデンの研究グループは、それぞれ別個に院外心停止者を対象とする無作為化試験を行い、救急車の要請をしてきたバイスタンダーによるCPRは、胸骨圧迫のみでも、人工呼吸を併用しても、患者の生存に対する影響に差はないことを明らかにした。2本の論文はNEJM誌2010年7月29日号に報告された。

 胸部圧迫のみを行うCPRの有効性を調べる研究はさまざまに行われており、胸部圧迫のみでも救命率に差は無いこと、場合によっては胸骨圧迫のみの方が転帰は良好である可能性を示している。それ以降、バイスタンダーの場合には、見知らぬ患者への人工呼吸実施に抵抗感が強いこともあって、一般人によるCPRは人工呼吸を重要視しなくてもよいという考え方が広まった。

 だが、バイスタンダーが行うCPRにおける人工呼吸の有用性を調べた質の高い無作為化試験は、これまで行われていなかった。

 救急車到着までに、バイスタンダーがどのようなCPRを行えば患者の転帰は最善になるのか。2つのグループは、ほぼ同様の試験設計、すなわち、救急要請の電話に対応した通信指令係がバイスタンダーに対して、CPRは開始されていないことを確認、指示を受けながらのCPRを行う意志があるかどうかを尋ねて、同意が得られた場合に患者を登録、無作為に胸骨圧迫のみ、または胸骨圧迫+人工呼吸に割り付け、生存への影響を調べる無作為化試験を実施した。いずれも研究者たちは、胸骨圧迫のみの方が転帰良好と仮定した。

 米Washington 大学のThomas D. Rea氏らは、18歳以上の院外心停止者を登録、胸骨圧迫のみ、または人工呼吸併用(人工呼吸2回+胸骨圧迫50回の繰り返し)に割り付け、いずれかの実施をバイスタンダーに指示した。

 主要アウトカム評価指標は、生存退院、2次評価指標は、退院時の神経学的転帰良好(Cerebral Performance Categories:CPCの1または2)に設定。

 条件を満たした1941人の患者が分析対象になった。981人が胸骨圧迫のみ、960人が人工呼吸併用に割り付けられていた。生存退院率は、胸骨圧迫のみ群が12.5%、人工呼吸併用群が11.0%(P=0.31)、退院時の神経学的転帰良好者の割合は14.4%と11.5%(P=0.13)で、いずれも両群間に有意な差は見られなかった。

 サブグループ解析では、以下の患者群などにおいて、胸骨圧迫のみの生存利益が示唆された。心原性心停止患者(15.5%と12.3%、P=0.009)、除細動が有効なリズムを示した患者(31.9%と25.7%、P=0.09)。対象となった1941人のうち、約70%が心原性の心停止で、ほぼ1/3は除細動が有効なリズムを示していた。

 一方、スウェーデンKarolinska研究所のLeif Svensson氏らは、9歳以上の院外心停止疑い例を登録、無作為に胸部圧迫のみ、または人工呼吸併用に割り付けた。主要エンドポイントは30日生存率、2次エンドポイントは搬送当日の生存などに設定した。

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