地域に密着した医療現場にいると、コミュニティーでの支え合いが
生命のありようを左右することをしばしば実感する。
例えば、同僚の長(ちょう)純一医師は、
「大都市よりも人間関係が濃密な山間部の方が認知症が進みにくい、
そんな印象がある」と指摘している。
自然環境も影響しているのかもしれないが、なべて農村のほうが
高齢者でも畑仕事やら何やらで、体を動かして自らの「役割」を果たす機会が多い。
多少認知症が進行しても「火事さえ出さなきゃいいよ」と
周囲が見守るケースもあるだろう。
日本福祉大学社会福祉学部教授の近藤克則氏の『「健康格差社会」を生き抜く』
(朝日新書)は、社会疫学の視点から、コミュニティーの力を
明らかにしようとした労作だ。
「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の大切さが実証的に語られている。
「ソーシャル・キャピタル」とは、直訳すると「社会資本」となるが、
ダムや道路、橋といったインフラのことではなく、
人間関係やグループ間の信頼、規範、ネットワークといったソフトな資本、
つまり人と人とのつながりを指す
(関連記事:2010.5.25「日本の健康長寿、秘訣は『ソーシャル・キャピタル』」にあり」)。
著者はまず、要介護認定を受けていない約3万3000人の高齢者の
「身体・心理・社会的な状況」を4年間追跡した調査によって、
「健康格差社会」の実態を浮き彫りにする。
この調査では、高所得の人ほど「よく眠る」、「明るく、うつが少ない」
「要介護リスクや虐待が少ない」など、健康状態がよいことが分かった。
また、介護保険を利用している高齢者約2万8000人を4年間追跡した調査によれば、
高所得で保険料が高い人たちの死亡率11.2%に対し、最低所得層(生活保護受給世帯)
では34.6%と、男性は3倍以上も死亡率が高いという。
「先進国」の日本でも人間の生存権にかかわる「健康格差」が拡大している。
だったら、必死に「勝ち組」に加わる努力をすればいいのか?
近藤氏はこう述べている。
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著者プロフィール
色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。
連載の紹介
色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。
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