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「選ぶのではなく決めよ」能楽師から学んだ外科医の心得

2010/10/15

 世界一の品質といわれる工作機械メーカー・森精機社長の森雅彦さん、コンピューターにおける個人認証を手がける日本ベリサインの元社長で、同社を一部上場させた後にICカードリーダライター事業などを行うBUGの社長となった川島昭彦さんとは、古くからの友人です。みんな忙しいけれど、「たまには会いましょう」と年に1度ぐらい会って飲む機会があると、いろんな業界の人とのつながりが面白くって、いろいろ勉強になります。

 少し前のことになりますが、他業種のいろんな方からの刺激を求めて、グロービス経営大学が主催する能力開発や人的ネットワークの構築を目的としたカンファレンス「あすか会議」に参加させてもらったことがありました。

 長野県の小淵沢までひょこひょこと出かけて行くと、バスの中で、川島さんつながりでお友達になったオムロンの竹林一さん(現オムロン直方社長)とばったり!「何しとんですかぁ、せんせぇえ〜」とか驚かれながらも、2日間の会議のガイド役を買って出てくれました。竹林さんのお陰でツボを押さえながら、医学学会とは違った白熱の勉強会を楽しむことができました。

 そこで聞いた話はすべて興味深かったのですが、中でも特に印象に残った方のお話を紹介したいと思います。まずは、リクルートの部長の席を蹴っ飛ばして、杉並区立和田中学校の校長先生(2008年に退任)になってしまった藤原和博さん。本人も言っていたけれど、さだまさしさんに本当によく似ています。というか、映画の興行失敗で約30億円あったといわれる借金を全額返済してすっかりふくよかになった本物のさださんよりずっと、(僕のイメージの中の)さださんらしい!(笑)

もたもたしてると、「できない理由」がどんどん出てくる
 「校長先生になろう!」という自著の発売直後だっただけに、話はその内容が主だったのですが、和田中での「夜スペ」や「よのなか科」などの実際をうかがうことができました。藤原さんが言っていたのは、「改革にはまずはスピード」。必要だと感じるとすぐ始めちゃう。時間をかけると言い訳的な「できない理由」がどんどん出てくるので、とにかくまずはやってみる!想定内の問題点には直面した時点で対処し、想定外の問題には、目的の必要性を強力に訴えて押し切る!力業ですね。

 まずは目的ありきで、手段はあくまで手段。いつも目的を忘れないから、ブレない。物事をきちんとやり遂げる人の方法論って明快で、共通している。「デキる人のやることは一緒だなぁ」と改めて感心しました。で、和田さんの話を聞いたにもかかわらず、「僕はどうしてこういう風にできないのかなぁ?」と、すぐに“できない理由”を探し始めちゃった自分がとても悲しかったです。

 それにしても、学校がうまくいってない理由と医療がうまくいってない理由には、共通する部分があるような気がします。学校って何をするところなのか?生徒児童が何を求めているのか?それをしっかり考えないから目的があいまいになり、形式を整えることやアリバイ作りといった“手段”ばかりに気がいってしまう。本質とは違うことに気を取られて“ごっこ“をしているのは、医療も似たようなものでしょう。

周囲の騒音に惑わされ、本質を見失う
 また、学校教育も医療も、その本質を見ていないがゆえの外部からの戯言が多すぎ、それが“ごっこ”の一因になっているようにも感じます。

 ちょっと前にメディアで大騒ぎになった、帝京大学の院内感染問題などもその典型例でしょう。騒ぎを受け、厚労省はアシネトバクターを感染症法の届け出対象に指定するっていうけど、それで何が変わるわけ?これまでもそうだったように、データが積み上がっていくだけで、実践的な施策には何らつながらない。届け出で感染症に対する意識が変わる???バカを言うのもいい加減にしてほしい!届け出の義務化なんて、外部の幼稚な批判に対して厚労省が差し出した、形ばかりの“詫び状”にしか過ぎないでしょ。

連載の紹介

昭和大元教授「手取屋岳夫の独り言」
「最近の日本の医療って、ちょっとおかしくない?」…と愚痴は出るものの、医師という仕事はやっぱり素晴らしい!一外科医として、大学教授として、教育者として感じた喜び・憤り・疑問などを、時に熱く、時には軽〜く、語ります。

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