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離島で精一杯のACLS! その結果…
中山 剛志(小浜診療所)

2010/10/19

 コールは突然だった。

 とある会合から帰宅し、「さて寝よう」と床に入った午前0時24分。発信元は町が契約している警備会社からだった。時間外診療の依頼がある場合にかかってくる番号。小浜島ではこんな時間のコールは珍しい。

「中山先生ですか?」
「はい。どうしました?」

 普通であれば、この後に告げられるのは患者の名前、年齢、連絡先のはずである。しかし、「Aという民宿は分かりますか?そこに呼吸していないかもしれない人がいるようです。詳しい話はよく分からないので、090-○○○○にかけてください」。飛び起きて、身支度を簡単に整えながら電話をしてみる。民宿の人だ。

「診療所の中山ですが、どうしました?」
「Aなんだけど、とにかくすぐに来て。呼吸をしていないかもしれない!お酒を飲んでて、気付いたら呼吸をしてなくて、さっきは呼びかけたら反応したんだけど…」
「とりあえず、すぐ行きます」

 部屋から出ると、妻も電話のコール音を聞きつけて起き出していた。幸い妻は医師で、現在は休職中ではあるものの麻酔科の後期研修中である。「呼吸が止まっている人がいるらしい。すぐ裏の民宿だから、一緒に来て」と伝えると、神妙な顔から緊急性が伝わったのか、すぐに準備して追いかけてきてくれるという。現場がすぐ近くということなので、状況を確認するため、診療所に立ち寄らず、そのまま向かう。

 民宿の玄関先に50代くらいの男性が倒れており、周りに民宿の人や騒ぎを聞きつけた人が数人集まっていた。

 「酒を飲んでいて、意識がなくなって、吐いて、気付いたら息をしていなくて…」。とりあえず意識、循環、呼吸の確認をしてみる。心肺停止! すぐに心臓マッサージを開始。AEDがほしいが、一番近いAEDは診療所内だった。

 民宿の人はパニックになっていて患者に向かって「起きろ~!」などと言いながら、足を叩いたりしている。詳しく患者さんの情報を聞こうとしても、当日着いたばかりの観光客らしく、同行者も「元々元気な人」という以上のことを知らない…。

連載の紹介

離島医師たちのゆいまーる日記
沖縄県の離島診療所で働く、出身県も経験年数もさまざまな10人の医師が、診療だけにとどまらない日々の生活をつづります。「ゆいまーる」とは沖縄方言で相互扶助の意味。「ゆいまーるプロジェクト」は沖縄県の離島で働く医師たちが集う組織です。現在の執筆者は。「こちら
「ゆいまーる日記」が電子書籍になりました

 2009年から3年間、沖縄の離島で働く若い先生方に持ち回りで執筆していただいた「離島医師たちのゆいまーる日記」。連載のうち、選りすぐりの60本を再編集の上、電子書籍にまとめました。離島で1人で働く医師にはどのような役割が求められるのか、休みは取れるのか、家族はどうなるのか、島の人たちとの関係はどうなのか――。現場の話がぎゅっとつまった書籍となっています。

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