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しけ単?Duo?受験生の子とのコミュニケーションは参考書選びで

2010/11/09

 前回の記事「息子に田舎の病院を継がせる奇策」には、賛否合わせていろいろな反応をいただきました。「表現する受験屋」を自任する私にとって、「賛否」というのはうれしい限りです。一番困るのは「無視」されることだからです。中でもお子さんがいらっしゃらない方からの反応が結構あったのも望外の喜びでした。あの受験という青春の熱情の固まりのような体験を経た人の間には、お互い「戦友」と呼ぶにふさわしい共感があるのでしょう。

 共感といえば、かつて流行った音楽だとか、テレビ番組とか、好きだったアイドルなどを通じてのものが一般的ですが、世代の異なる子どもとの間となると、なかなか見つからないのが悩みの種です。共感のネタをあえて探すとすれば、世代を越えて使われている受験参考書のたぐいでしょうか。子どもは成長していくにつれて、親と(特に父親と)会話をしなくなります。親は何とか子どもとの共通点を探そうとするのですが、なかなかうまくいきません。そんなとき、学習参考書選びに付き合うことが、コミュニケーションのきっかけになることがあります。

 今回は私の専門である英語の参考書の中で、英単語集の選び方についてお話ししましょう。私の受験時代(1970年代前後)はちょうど、赤尾の“豆単”と呼ばれた『英語基本単語熟語集』(旺文社)に代表される、aから順番に並んでいる単語集から、『試験に出る英単語』(青春出版社)に移り変わるころでした。“しけ単”、“でる単”など、地方によって呼称が違っていたのも懐かしい思い出です。

 『試験に…』はとても画期的な単語集でした。「試験に出る順番」と銘打った看板に偽りなく、本当にその順の頻度で出ていて驚かされたのを覚えています。豆単の方は、aから順番に載せてあるわけですが、最初に出てくるabandon「捨てる」などという、試験では今も昔もほとんどお目にかからない単語だけはきっちり覚えていて、あとは全く覚えていない、という笑えない受験生が少なくなかったです。しかし、『試験に…』は、本当に実用的で、最初の単語intellect「知性」は確かによく出ました。

 著者の森一郎氏(故人)は都立日比谷高校で東大に大勢の教え子を送り込んだ経験から、コンピューターのなかった時代に、東大英語に出る英単語を一つひとつ拾いあげて頻度順に並べ替えて本書を完成させました。文字通り手作業の労作でした。当時はどこの大学も東大に右へならえで、東大の入試問題を研究すれば自ずと他の大学の問題も知れるという時代でしたから、森氏の労作は、東大受験生ならずとも非常に役立つものでした。氏はその後、関西学院大学の教授になり奈良の学園前という高級住宅街に豪邸を構えました。地元の受験生たちは、「俺がこの前買った“しけ単”、森のおっさんの豪邸の池の鯉のエサ代になったわ」などと茶化したものでした。

 「出る順」という同じコンセプトで作られた単語集のおそらく最後になるであろうと思われるのが、90年代にベストセラーになった『英単語ターゲット』シリーズ(旺文社)でした。今でもこれを採用している学校もありますが、やはり時代とともに内容は古くなってきました。

参考書は子どもと一緒に書店で選ぼう
 今よく売れているのは『速読英単語』(Z会出版)と『システム英単語』(駿台文庫)です。あとは『Duo』シリーズ(アイシーピー)とか、世評の高い英和辞書GENIUSから受験用に特化した『ジーニアス英単語』シリーズ(大修館書店)などの人気が高いです。これらは、短い例文と一緒に英単語が解説されているので、覚えやすい上に単語の使い方まで頭に入るというのが特徴です。

 受験参考書は、できればネットで購入するより、実際にお子さんと書店に足を運んで、一緒に手にとって選ぶことをお勧めします。「お父さんも英単語では苦しんだけど、こう覚えた」などと苦しかった受験勉強の話を、軽くうんちくを垂れながら語ると、普段はすぐ視線をそらすわが子も存外耳を傾けてくれるものです。いわゆる受験戦争の戦友の先輩後輩になるわけですので、子どももそのあたりは少しは敬意を表してくれます。そういうとき、「自分も受験勉強でがんばっていてよかった…」と改めて思うことでしょう。ただ、このときとばかりに、一気呵成にうんちく、自慢話、説教話のオンパレードとなると、子どもはすぐに引いてしまいますから細心の注意が必要です。

著者プロフィール

松原好之(「進学塾ビッグバン」主宰)●まつばらよしゆき。近著に「”逆算式勉強法”なら偏差値40でも医学部に入れます」(講談社)、「9割とれるセンター試験の”逆算式勉強法”」(KADOKAWA中経出版)がある。

連載の紹介

松原好之の「子どもを医学部に入れよう!」
すばる文学賞受賞作家、大手予備校のカリスマ英語教師、そして医系予備校「進学塾ビッグバン」の主宰者である松原好之氏が、医学部受験の最新ノウハウや、中高生・予備校生の子どもとの付き合い方などを指南します。
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