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公的保険と民間保険が共存すると…

2010/11/11
馬場恒春

2011年1月から当クリニックで始まる人間ドックに参加する放射線科チームと。左端の一番メタボなのが筆者、その横が家内。

 渡独して8年。デュッセルドルフの街角に小さな内科クリニックを構え、欧州在住歴云十年の先輩方(私より年下の先輩もいらっしゃいますが)の激励を頂戴しながら医業を行っています。

 明治の初期にドイツの医学と医療制度を取り入れ、国民皆保険と経済成長の歯車が上手く合ったこともあり、日本は今や世界最高の長寿国になりました。しかし最近は、その医療制度も課題が目立つようになっています。日本の多くの医療者の目がアメリカに向けられる昨今、本家本元のドイツの医療制度が、今日に至るまでどのように発展・進化してきたか、数回に分けて紹介したいと思います。初回と第2回はドイツ医療の根幹、医療保険制度についてです。

初診で最初の質問、「あなたのクランケンカッセは?」
 「あなたのクランケンカッセ(保険)は何ですか?」
 「DAKです」
 「それではこちらへ…」
 50歳を過ぎてから、しかも旅先のリューベックで、不覚にもレントゲン台の上にいる私。「ついに日ごろの鯨飲馬食が災いしたか…」。ふとそんな思いが頭をよぎる。
 「虫垂炎のようですね」

 渡独3年目にして初めて医療保険カードのお世話になった日のことでした。クランケンカッセ(Krankenkasse)は、直訳すると「疾病金庫」となり、日本の健康保険組合のようなものです。DAKは、後述する公的保険の一つです。

 ドイツの医療保険は、国民の9割近く(約7000万人)が加入している公的な医療保険(Gesetzliche Krankenversicherung:ゲゼッツリッヒェ・クランケンフェアズッヒャルング、 直訳すると「法的“疾病”保険」)と、公務員、自営業者、高額所得者が選択できる民間の医療保険(Private Krankenversicherung:プリヴァーテ・クランケンフェアズッヒアルング、 通称「プライベート」)より成り立っています。国の国民皆保険の制度のど真ん中に民間保険が組み込まれているのが、ドイツの医療保険制度の最大の特徴です。

 公的保険の財源はすべて保険料のみで賄われています。保険料は年齢や性別とは関係なく所得額で決まります。 給与所得者の場合には、収入の14.9%(来年より15.5%)を雇用者と被雇用者で折半します。 収入が一定以上になると、公的保険への加入義務がなくなり、プライベート保険に移行できます(2010年度の基準額は、過去3年間の収入が連続して年4万9950ユーロ以上)。したがって、「プライベートの患者」は富裕層という意味も持ちます。

著者プロフィール

馬場 恒春

ノイゲバウア‐馬場内科クリニック(デュッセルドルフ)

1971年、カリフォルニア州へAFS交換留学。1978年、弘前大学卒業。弘前大学、ドイツのハインリヒハイネ大学(フンボルト基金研究員)、国立国際医療センター臨床研究部(流動研究員)、リューベック大学(フンボルト基金研究員)、東京大学、北里大学、福島県立医科大学の各研究室でお世話になった後、2003年に渡独。現在はデュッセルドルフ市内のノイゲバウア馬場内科クリニックに勤務。専門は内科一般。趣味はサッカー応援、大相撲観戦。

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