O157による急性胃腸炎に罹患した成人では、約8年後まで高血圧、腎障害、心血管疾患リスクの有意な上昇が見られることが、英London健康科学センターのWilliam F Clark氏らの分析で分かった。論文は、BMJ誌2010年11月20日号に報告された。
O157が小児に引き起こす溶血性尿毒症症候群については十分に報告があるが、成人のO157による急性胃腸炎後の長期的な転帰に関する情報はほとんどない。O157による急性胃腸炎は散発的に発生し、成人の場合には多くが自己限定的な症状にとどまり、医療機関を受診しない症例が多いからだ。
著者らは、水道水が病原性大腸菌O157:H7とカンピロバクターに汚染され、2300人の胃腸炎発症者(救急部門受診750人、入院65人、溶血性尿毒症症候群27人、死亡7人)を出したカナダのオンタリオ州ウォーカートンの悲劇に着目した。
ウォーカートンで2000年5月に発生した水道水汚染は、大雨によって、肥料として農地に散布された家畜の糞便が井戸に流れ込み、十分に塩素消毒されないまま水道水として配給されたことが原因と考えられている。無症候だが感染していた住民もいたと考えられるため、02年から08年まで、住民の健康調査Walkerton Health Studyが行われた。
著者らは、そこで収集された情報を主に利用して、アウトブレイク以降の高血圧、腎障害、心血管疾患のリスクを長期的に評価する前向きコホート研究を行った。
Walkerton Health Studyに登録され、08年8月まで試験に参加していたのは、この地域在住の4561人だった。それらの中から、18歳以上で、アウトブレイク前に高血圧、腎障害、心血管疾患でなかった人々を、汚染された水道水を飲んだかどうかにかかわらず選出。アウトブレイク時に溶血性尿毒症症候群と診断された患者は除外した。
条件を満たしたのは1977人で、うち1957人(99%)は汚染水を飲んだと報告していた。1977人中、急性胃腸炎なしまたは軽症の下痢のみを経験していた人(非曝露群)は910人(46%)で、うち777人は下痢なし、133人は軽い下痢を経験していた。急性胃腸炎経験者(曝露群)は1067人(54%)で、急性胃腸炎に対する治療を受けたのは378人だった。
アウトブレイク時には便培養による確定診断が行われていなかったため、O157曝露の有無は、急性胃腸炎(4日以上持続する下痢、1日に4回以上の下痢、血性下痢のいずれかがあった場合)の有無によって判断した。
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