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【第6回】
米国での臨床実習、どうアピールする?

2010/12/07

 前回お示ししたように、米国で臨床実習すれば、米国人医師からLOR(Letter of Recommendation)を書いてもらえる貴重なチャンスを得ることができます。しかし、当然のことですが、臨床実習で頑張らなければ良いLORはもらえません。

 日本では学生実習での指導医からの評価は、自分が志望する診療科に進めるかどうか、初期研修で希望する病院に採用されるかどうかに、影響を及ぼすことはあまりありません。むしろ指導医から良い評価を得ようと実習を頑張っていると、周りの学生に変な顔をされるかもしれません。

 しかし米国では、とりわけ競争の激しい診療科を目指している学生にとっては、実習での評価はとても重要なものなので、学生は実習に積極的に参加します。この“積極性”が、日本人学生の目には露骨に映り、違和感を覚えることもあるかもしれません。

 ですが、患者さんの診療が最優先であることは当然として、日本人学生が米国で実習するなら、ある程度は割り切って、指導医にアピールできるように頑張る必要があると思います。

外国からの医学生がアピールする方法
 実習中は、言葉やシステムの違いでかなり戸惑うことが多いと思います。また、担当患者さんについて英語でプレゼンテーションしたり、問診したり、といった点においては、米国人医学生の方がはるかに上達しています。このような状況で、外国から来た医学生が自己アピールするのは難しそうに思えますが、方法はいくつかあると思います。例えば、

(1)良い質問をする
(2)周りの学生が答えられない質問に答える
(3)自発的に何かのトピックについてプレゼンテーションをする
(4)エクストラに働く
などです。順に説明していきましょう。

(1)良い質問をする/(2)周りの学生が答えられない質問に答える
 米国では学生がどんどん質問をします。ここで大切なのは、「良い質問」をすることです。良い質問をするには、ほかの学生に負けない医学知識が必要です。皆が答えられない質問に答えるにも、やはり知識が必要です。

 米国の病院では、学生やレジデントを対象とした症例検討会(「Morning report」「Noon conference」など)が頻繁に開かれます。患者さんの症状や身体所見から、必要な検査や鑑別診断を考えていきます。こうした勉強会は、良い質問をしたり、周りの学生が答えられない質問に答えたりできる絶好のチャンスなので、決して恥ずかしがってはいけません。

 例えば、頭痛で受診した60歳の女性に、問診で何を聞くべきかを議論しているとしましょう。ここであなたが顎跛行や、肩と腰の筋痛の有無を質問すれば、指導医は「この学生は側頭動脈炎を鑑別として考えており、側頭動脈炎にはリウマチ性多発筋痛症がしばしば合併することを理解している」と分かります。ほかの人が思いつかなかった鑑別疾患とその理由を挙げることができれば、良い評価につながります。

 (3)自発的に何かのトピックについてプレゼンテーションをする
 診療チームに有用と思われるトピックを選んで徹底的に調べ上げておき、回診の際に5~10分程度の短いプレゼンテーションをするのも良いと思います。私も学生の時、自己免疫性肝炎、最新のHIV治療について、配布資料を作ってプレゼンテーションしました。現在はレジデントとして、学生と一緒に働く機会が多いのですが、自主的に何かを調べてきてチームで知識を共有しようとする医学生はとても好印象です。指導医も知らなさそうな面白いトピックや最新の論文について発表するのもお勧めです。

著者プロフィール

安川康介(米国ミネソタ大学病院内科レジデント)●やすかわ こうすけ氏。2007年慶應義塾大学卒業。日本赤十字社医療センターでの初期研修終了後、09年6月より現職。趣味は読書とドローイング(線画)。

連載の紹介

臨床留学への道
「米国への臨床留学に興味があるが、何から始めればよいのか分からない」。そんな医学生たちに向けて、米国ミネソタ大学病院の内科レジデントである安川康介氏が、留学決定までのプロセスをたどりつつ、ノウハウを伝授します。

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