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知識のアウトプットで「患者モニタリング」を鍛える

2010/12/22
前田幹広

 レジデントも2年目になると、1年目のレジデントや薬学生を指導する機会が増えてきます。臨床教育は様々な形で行われますが、その中でも私が特にアメリカの特徴だと感じたのは、知識をアウトプットすることで学ばせる機会の多さです。ディスカッションやプレゼンテーションをはじめ、アウトプットを非常に重視しているのです。

メリーランド大学メディカルセンターUMMC)のSurgical ICUSICU)に2年目の薬剤師レジデントとして所属していた私はローテーションに来ていた1年目の薬剤師レジデントの指導役を仰せつかったことがあります。今回は、そのとき私がアウトプット訓練による指導を試みた経験を紹介したいと思います。

アウトプットのスキルを徹底的に鍛える
 彼女はスタッフ薬剤師として薬剤部で調剤業務に長年従事してきた経歴があったので、薬の相互作用や用法・用量をコントロールする「処方チェック」はできていました。しかし、患者の薬物治療を計画する「患者モニタリング」が苦手でした。

 特に難儀していたのは、集中治療室に入室するような複雑な病態です。医師の処方を承認するかしないかという判断はできても、自分で患者をモニタリングして、薬剤師としての評価を元に計画を立てるということに難しさを感じていたのです。知識に関してはある程度のレベルに達していたので、彼女の知識をどれだけ整理して患者モニタリングのスキルを向上させられるかが、指導者としての私の課題となりました。

 私は、知識の整理にはアウトプットが重要だと考え、徹底的にアウトプットを課すという戦略を立てました。アウトプットのスキルは、ほかの医療従事者からの質問に回答したり、教育のためのプレゼンテーションを行うのにも役立ち、臨床薬剤師として仕事をする上でも重要です。

ガイドラインやレビューを元にトピックディスカッション
 疾病に対する薬物治療に関する様々なガイドラインやreview articleを読んでもらい、トピックディスカッションを繰り返すことにしました。指導者(ここでは私)は事前に論文をレジデントに渡しておき、2~3日後、ある1つのトピックをめぐって議論するのです。議論が白熱すると、3時間に及ぶこともありました。

 例えば、敗血症に関するディスカッションでは、「ガイドラインでは第1選択薬の昇圧薬がノルエピネフリンかドパミンと書かれているが、実際はどちらの方が有効なのか」というトピックをめぐって、ガイドラインが出版された後の論文も視野に入れながら、議論を繰り広げました。薬学生やICUに慣れていない薬剤師レジデントは、「昇圧薬の選択」というテーマについて考えたこともない人が多いので、彼女にとっても新鮮な経験となったようです。

著者プロフィール

前田 幹広

メリーランド大学医療センター・集中治療専門薬剤師レジデント

2002年東京理科大学薬学部卒業。2008年ノバ サウスイースタン大学薬学部International Pharm.D.課程修了。テンプル大学病院(臨床薬学一般レジデント)勤務を経て、2009年より現職。趣味はスキー、音楽鑑賞、旅行。

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