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NEJM誌から
ゲノム検査で疾患リスクを知っても生活習慣は不変

 米国では数年前から、ゲノム配列に基づいて様々な疾患の生涯リスクを予測する検査が消費者向けに市販されている。これらの検査を受けた人は、結果に基づいて生活習慣を変えるのだろうか。また、リスク予測を見て苦悩することはないのだろうか。そうした疑問を持った米Scripps Research InstituteのCinnamon S. Bloss氏らは、実際に検査を受けた米国人を追跡し、検査結果が与える影響を調べた。その結果、受験者の日常生活にはほとんど影響が及んでいないことが明らかになった。論文は、NEJM誌電子版に2011年1月12日に掲載された。

 米国では、複数の遺伝子が発症にかかわると見なされている20~40種類の一般的な疾患について、個々の発症リスクを推定する全ゲノムプロファイリング検査が、一般消費者向けに、400ドルから2000ドル程度の価格で直接提供(direct-to-consumer;DTC)されている。こうした検査については様々な議論があるが、現時点では、検査を受ける人に対するカウンセリングは必須とされていない。

 著者らは、この種のゲノム検査は、結果によっては利用者を不安にし、本来不要な、または有効性が明らかではない高価な検査やスクリーニングの利用を増やし、健康な状態にあるのに予防的な介入を望む人を増やすのではないかと考えた。そこで、臨床的な有用性が不明なDTC検査の1つである「Navigenics Health Compass」が、受検者の心理面、行動面、臨床面に及ぼす影響を調べることにした。

 分析対象に選んだのは、割引価格でこの検査を利用した医療技術関連会社の社員だ。したがって、一般の人々よりこの検査について理解していると考えられた。

 この研究では、検査前と検査後平均5.6カ月の時点の、不安(Spielberger State-Trait Anxiety Inventory;STAIを用いて評価)、脂肪の摂取(Block Dietary Fat Screenerを用いて評価)、運動(Godin Leisure-Time Exercise Questionnaireを用いて1週間に行う運動の強度と時間、頻度などを評価)のレベルに差があるかどうかを調べた。加えて、検査に起因する苦悩(Impact of Events Scale - Revisedを用いて評価)のレベルや、リスク予測がなされた疾患にかかわる13通りの検査やスクリーニング(眼科の検査、糖尿病の検査、心電図、結腸鏡検査、コレステロール検査、胸部X線検査、心臓の負荷試験、マンモグラフィー、PSA測定など。無症候者に対する臨床利益が明らかでないものも少なからず含まれている)を受けたかどうか、検査結果について検査会社が提供している無料の遺伝相談サービスを利用したか、かかりつけ医に結果を知らせたかなどについても調べた。

 「Navigenics Health Compass」がリスクを評価するのは、腹部大動脈瘤、アルツハイマー病、心房細動、黄斑変性、肥満、クローン病、セリアック病、結腸癌、びまん性胃癌、バセドウ病(グレーブズ病)、脳動脈瘤、肺癌、心筋梗塞、多発性硬化症、変形性関節症、乾癬、関節リウマチ、むずむず脚症候群、ループス、2型糖尿病、緑内障に、女性の場合は乳癌、男性の場合は前立腺癌を加えた計22疾患(その後、この検査が扱う疾患数はさらに増えている)。受検者には数種類の情報が与えられるが、今回は、(1)推定される生涯リスクをパーセンテージで示した表、(2)集団の平均的なリスクと比較し本人のリスクが平均より20%超高い病気と本人の生涯リスクが25%を超える病気を色分けし目立つように示した図―の2点が検査を受けた人々に及ぼした影響を調べた。

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