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医療制度改革のヒントを探る

第18回
医療制度改革を実行するための7つのステップ

2011/02/01
ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)

連載の最終回を迎えて
 我々が、日本の医療制度の課題や解決策を探る社内プロジェクトの成果として「医療制度改革の視点」をまとめたときの目標のひとつが、日本の医療制度改革についての広い議論のベースとなるような中立、かつ客観的な資料を提示したいということであった。今回、Webメディア上にレポートを公開することで、識者の方々、また読者の方々からさまざまなご意見をいただけたことに深く感謝を申し上げるとともに、ここで交わされた議論は、現在も継続して取り組んでいるプロジェクトの今後に生かしていきたいと考えている。

 連載の最終回にあたって、まず、これまでの連載内容を概括し、ついで我々の考える課題の解決策および医療制度改革を実行するためのステップについて解説する。

医療財源の確保
 最初に、我々の分析によって、日本では今後、高齢化や医療技術の進展などによって医療需要が急増していくことが不可避であることを示した。将来の医療費増加に対して、診療報酬の引き下げによる医療費抑制策を維持していくことは不可能であろう。したがって、医療費をどう削減するかではなく、財源をどう確保し、医療水準を高く維持するためにはどう再配分するのが最も効果的なのかを検討することが求められるが、我々は以下の3つの対策を組み合わせて行う必要があると考える。

1.既存財源である「保険料」、「患者の自己負担」、「公的負担」のうち、いずれかの負担率を増加し、既存財源を拡大する。

2.新しい財源を確保する。我々は「任意支払い」の導入の可能性について検討したが、日本が任意支払いを導入する場合は、どのように実施していくかを明確に規定する必要がある。スイスの事例を取り上げたが、スイスの制度をそのまま日本に移入することを勧めているわけではない。

3.医療提供の非効率な部分を改善する。すなわち、現在過剰になっている医療サービスや治療の見直しと削減を進め、一部の治療については専門医に集約させるなどして機能分化を促進する。

医療提供面での課題
 日本の医療提供体制は世界的にみて総じて非常に優れている。しかし、現在日本は医療財源の確保において難しい選択を迫られているのみならず、医療提供面においても、「医療現場の崩壊」、「医師不足」等、医療制度ならびに医療提供体制の持続可能性にかかわるさまざまな課題に直面している。

 日本では医療資源が計画的に配置されておらず、雇用は市場の力に任されている。現在、救急科、麻酔科、産科、あるいは過疎地で医師が不足するなど、診療科や地域による医療資源の偏在が顕在化しているが、医師不足の問題は、多くの諸外国で行われているような計画的配置が日本では行われていないことに主に起因している。これはまた、必要以上の長期入院や過剰診察など医療資源の過剰利用が許されていることの問題でもある。

 医療提供の諸問題の根底にある原因は透明性の欠如にある。診療報酬の価格以外に医療への介入がほとんどなく、どのような医療が提供されて、どれくらいの治療効果があったのかが基本的には明らかにならない。このために、時にインセンティブが歪められ、非効率的な診療行為の報酬が必要以上に高く設定される、あるいは医療提供者には利益になっても医療システムには不利益になる行為を医療提供者が行わざるを得ないということさえ起こり得る(例えば、病院経営の維持のために病床利用率の増加を目的に在院日数を延長する等)。

問題解決のアプローチ
 日本の医療を取り巻く環境が急速に変化するなかで、日本の医療制度を維持していくためには、従来の制度を部分的に手直しするだけではもはや限界があり、抜本的な構造改革が必要であろう。この点で諸外国が改革に取り組んだ経験は、日本にそのまま当てはめることはできないが、日本の医療制度改革のヒントを与えてくれる。

 医療制度の再構築においてまず必要となるのが、ビジョンの設定である。新たな制度が何を達成したいのかの議論からビジョンを策定し、解決しなければならない改革のボトルネックを明確にした上で、ビジョン実現の手順や方法を議論すべきである。

著者プロフィール

ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)●オックスフォード大学にて経済学修士・博士号取得。1995年より日本在住。2001年マッキンゼー入社。アジア諸国(主に日本)でのヘルスケア分野を主に担当。

連載の紹介

医療制度改革のヒントを探る
マッキンゼーが、日本国内の医療制度について2008年末に独自にまとめたレポート「医療制度改革の視点」の内容を順次紹介していきます。ぜひ一緒に考えてみてください。本連載の意義と目的については、こちらをご覧ください。

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