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フルマッチの秘訣は屋根瓦方式の広報活動

2011/03/01

 今年度も残すところあとわずか。年度末を迎え、当病院の研修管理委員会も、1年の反省と来年度に向けての準備が既に始まっている。研修予定の学生が国家試験に全員合格してくれれば、お陰様で来年度に入ってくる初期研修医もフルマッチ(定員一杯)となる。これもひとえに、院長先生をはじめとする病院幹部、研修管理委員長以下の研修管理委員の諸先生方、そして各科指導医のご努力の賜物と感じている。

 新しい人材はその組織の活力になり、古い人材のモチベーションを支える大きな要素の一つになる。フルマッチには、計りしれない効用がある。

研修医2年目の重要な仕事とは?
 当病院では、より良い研修指定病院を目指し、「研修医―指導医昼食会」を毎年行っている。院長を含む病院幹部・各科指導医と研修医が、会議室のテーブルを囲んで昼食(弁当)を取りながら、1年間の反省を通じて今後の要望を意見交換する場である。研修管理委員会が主催するもので、研修医1年目向けは2月、2年目向けは3月に実施される。

 今回、1年目の研修医からは、指導体制や研修カリキュラムに対する大きな要望は特に出ず、満足度は高いように感じられた。一方、寮の個人部屋のインターネット環境の整備、図書室の充実、個人机を備えた研修医部屋の設置など、ハード面の改善要望がいくつか挙がった。昔に比べれば厚遇されている研修医だけに、「寮の共同浴場にジャグジーを入れてほしい」といったトンデモ要求が出ないかと心配していたが、さすがにそうした“暴言”はなかったので安心した。

 ただし、1年生は研修があと1年残っており、言いたいことを我慢しているのかもしれない。今月開かれる2年生との昼食会では、もっと厳しい意見が飛び交うことになるだろう。

 一方、指導医からも研修医に対し、この1年を振り返った反省点や、研修2年目を迎える上での心構え、さらには将来に向けてのエールなどが伝えられた。僕にも順番が回って来たので、次のような話をした。

 「幸い当病院は研修指定病院として人気がある方で、毎年フルマッチとなっています。ただ、一番大切なことは、フルマッチにあるのではなく、君達研修医が生き生き働いてくれることだと思います。そのことをどうぞ後輩の学生に伝えてください。それが屋根瓦式のフルマッチ対策です。この1年で十分に後輩に宣伝できましたか?臨床実習で回ってきた学生は、僕ら指導医の誇大広告より、君ら研修医の生の声を信じます」

 屋根瓦式教育&on the job training(OJT)をコンセプトに掲げる当大学の臨床実習は、研修医と学生の接点が多い。われわれも学生には、生徒というよりは、「実施できる医療行為に制限がある研修医」として接している。もちろん他大学からのマッチング希望者も大歓迎ではあるが、実情をよく知る当大学の学生から希望が多いことは、人気が上辺だけではないことの証のようでうれしい限りである。

 そして、こう続けた。「あともう少しで君らに後輩ができます。2年目になると必要以上に先輩面する人もいますが、威張っているだけで実力がなければ下は付いてこないので、自分のスキルアップに努めるとともに、1年目が君達と同じように生き生きと研修できるように、厳しく、そして楽しく指導してあげてください。そうです。研修医2年目の重要な役割の一つは、優秀な研修医1年目を作ることです」

著者プロフィール

緑山草太(ペーンネーム)●みどりやま そうた氏。東京の大学病院の上部消化管診療チーフ。1988年東京の医科大学卒。04〜09年大学病院医局長。09〜10年、本サイトでブログ「僕ら、中間管理職」を執筆。

連載の紹介

緑山草太の「がんばれ!ドジカワ研修医」
医局長を5年務めたベテラン消化器外科医の緑山氏が、日本医療の将来を担う若手医師へ贈る応援歌。ドジでカワイイ「ドジカワ研修医」への指導や、彼らとのコミュニケーションを通じて感じた様々な思いをつづります。

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