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【緊急寄稿】原発事故対策
ヨウ素補給にうがい薬や昆布が不適な理由
(2011.3.22訂正)

2011/03/17
日本メディカルシステム株式会社(東京都中央区) 笹嶋勝

(編集部注:本記事は、「日経DIオンライン」の連載「笹嶋勝の『クスリの鉄則』」を転載したものです)


 震災に伴う原子力発電所の事故をきっかけに、放射線被曝による健康被害と、その予防について関心が高まっています。

 原発事故で漏洩し得る放射性物質には、様々なものがありますが、特に健康への影響が大きいとされるのが、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムです。これらは、呼吸などを介して体内に取り込まれ、内部被曝の原因になります。

 今回、このヨウ素、セシウム、ストロンチウムについて、資料を調べましたのでお知らせします。

※資料の中では、複数の単位が用いられています。一般には、1Gy[グレイ]=1Sv[シーベルト]で換算していますが、資料によっては、1Gy[グレイ]=0.8Sv[シーベルト]で換算しているものもあるようです。

■放射性ヨウ素(131-I)の危険性

 ヨウ素は、甲状腺に集積する性質があり、摂取された10~30%くらいが甲状腺に沈着します。放射性ヨウ素が甲状腺に多く取り込まれると、甲状腺癌を発症する可能性があります。実際、チェルノブイリの原発事故では、当時0~5歳だった人の甲状腺癌発症率が高いことが報告されています。これは事故により、131-Iが大量に散布され、それを乳牛が食べてそのミルクを摂取し生物学的濃縮が起きたのだと考えられています。

 なお、この甲状腺癌は、予後が非常に良いことも報告されています(5年生存率98.8%、10年生存率95.5%)。


■安定ヨウ素剤の効果、必要量、副作用について

 安定ヨウ素剤による甲状腺癌の発症予防効果については、次の二つのメカニズムが紹介されています。

【1】非放射性ヨウ素を投与してその血中濃度が高まることで、相対的に放射性ヨウ素の血中濃度が低下し、甲状腺への取り込みが減少する(競合的阻害)

【2】血中の非放射性ヨウ素の濃度が上昇することで、甲状腺ホルモンの合成に抑制がかかり、ヨウ素の取り込みが減少する

 安定ヨウ素剤によるブロック効果は、被曝24時間前摂取で93%、被曝2時間後摂取で80%、被曝8時間後摂取で40%、被曝24時間後摂取では7%と、時間により大きな差があります。

 必要量は、年齢によって異なります。 ※ヨウ化カリウム丸は1錠50mg。

1)新生児:ヨウ化カリウムとして16.3mg(ヨウ素として12.5mg)
2)生後1カ月~3歳未満:ヨウ化カリウムとして32.5mg(ヨウ素として25mg)
3)3歳以上~13歳未満:ヨウ化カリウムとして50mg(ヨウ素として50mg)
4)13歳以上40歳未満:ヨウ化カリウムとして100mg(ヨウ素として76mg)
5)40歳以上:不要 妊婦の場合は4)と同様

 副作用は、この量では大きなものはないとされています。

 3月12日に、日医工が約25万人分のヨウ化カリウムを福島県の卸に無償で出荷したことが報告されています。ですから現時点では、他の地域では品薄になっている可能性が高いと考えられます。

 ちなみに、2001年の論文には、敦賀湾での事故を想定して、「ヨウ化カリウム錠26万錠、ヨウレチンは0.75mg錠相当で2万8000錠など、10万8000人分が備蓄されている」と書かれています。有機ヨウ素であるヨウレチンでも、ヨウ化カリウムを代替できる可能性が示唆されていますが、具体的な摂取量については触れられていません。

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