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医療ITで改革を実現した2つの事例を紹介、聖隷浜松病院の見える化と鹿児島大学の院内活性化――NEC医療セミナー2011大阪(4/14訂正)

2011/03/25
本間康裕

 NECは2月18日、「NEC医療セミナー2011大阪」を、大阪市内のホテルで開催した。まず、「情報の見える化による病院医療の再生」と題して、日本病院会会長・聖隷浜松病院院長の堺常雄氏が講演した。医療制度の崩壊が叫ばれている現状で、診療の質と経営の質を向上させ、利用者に望まれる医療を提供するためには、ITを活用した情報の“見える化”が不可欠。堺氏は、実際に聖隷浜松病院で実行した見える化プロジェクトについて解説した。

●見える化プロジェクト推進、縦割り組織を有機的組織に変える

 聖隷浜松病院は、見える化を実現するために、2009年に医療情報センターを組織改編した。それまでの旧センターは、情報の一元管理と有効利用を目指して2001年に創設した組織で、医療情報部門、学術広報部門、経営企画部門がそれぞれ独立を保ちながら、縦割り組織の中で業務を遂行していた。

日本病院会会長・聖隷浜松病院院長の堺常雄氏

 新生医療情報センターは、「横の連携を図ってシナジー効果を生み出すため」(堺氏)大きく組織形態を変えた。センター長と副センター長(どちらも医師)を置き、その下にシステムの保守管理をする情報システム室、情報分析と企画提案を実施する経営企画室、学術・広報・入力支援を担当する学術広報室、資料保管やデータの抽出、統計処理を行う診療情報管理室、診療データの集積管理をする診療支援室の5つの部門を置いた。合計で40人近い人員を配置している。

 その上で、見える化推進の5つの目的「(1)医療の質向上、(2)医療の効率化、(3)経営の効率化、(4)情報の共有化、(5)人材確保・育成」(堺氏)実現を目指している。具体的な施策については、以下のような例を挙げた。

(1)病床当たり医師数からがんの5年生存率まで広くクオリティ・インディケーター(クリニカル・インディケーター)を公開。輸血など治療の手順や消毒に関する知識の確認などeラーニングの導入。
(2)手術室稼働率向上プロジェクトなどの実施。縦軸に利益金額、横軸に時間を置いた座標上での科別手術バブルチャート作成。
(3)手術ごとの利益と費用から原価率を算出する術式別成果計算実施。
(4)財務分析、顧客の視点、業務プロセスの視点、成長と学習の視点の4つの視点から総合的に評価する業績評価システム、バランススコアカード(BSC)の導入。
(5)てんかんセンターなど特定の疾病に特化したセンターの設立。

 堺氏は、2010年度から2015年度まで5年間で実施する中期事業計画「PROJECT NEXUS」を紹介し、「今年は各部門単位でBSCを作成する予定」と説明。最後に「決断をするのは人間で情報はその支援だけだが、情報は縦割り組織を有機的組織に変えるツールになる」と解説して、講演を終えた。

●医療クラークを採用し、業務を支援するナレッジシステムを導入

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の医療システム情報学准教授 宇都由美子氏

 次に登壇したのは、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の医療システム情報学准教授である宇都由美子氏。「医療ICT化と医療クラークの有効活用による病院の『元気化』」という題目で講演した。

 鹿児島大学病院は、1984年に国立大学で初めてオーダリングシステムを導入した歴史を持つ。1992年には医事請求システムを導入し、手術ごとの収支把握、請求漏れの根絶、不良在庫の一掃、購入費の抑制などを実現した結果、50%を超えていた医療費率(国立大病院で用いられる経営指標:診療報酬請求額に対する薬剤費・医用材料費の割合)を30%未満に下げることに成功するなど大きな成果を挙げた実績がある。

 同大学病院では、調整計数廃止に伴うDPC適用の厳格化に対応するために、2008年に医療クラークを採用した。DPCが精緻化されると、医事請求に関する医師の業務負担が増えるが、それを避けるためだ。「同年10月に外来に6人、2009年2月に病棟に6人を、各部署の所属とするのではなく医療情報部が責任を持つ形で導入した。医師からの評価も非常に高い」(宇都氏)。その際に、クラークの業務を支援するために、医療IT面での支援システムを導入した。

 外来では、医師の業務の対価である医学管理料を適切に請求するために、チェックマスターを構築した。病名、薬剤、検査や時系列条件、背反条件でチェックできる。クラークによる記録には医師のカウンターサインを必要とし、医師が最終的に算定の可否を判断する仕組みだ。病棟では、DPCコーディング支援(ナレッジ)システムを導入した。クラークが現在のコーディングが適正かどうかを検証して、不適切と判断した場合やよりよいコーディングがあると判断した場合は、帳票を見ながら医師と協議できる

 宇都氏は、「病院情報システム導入の目的は、当初は省力化・効率化だったが、次第にデータ一元化・共有化・標準化に移っていった。今後のシステムには、意思決定支援や医療情報評価の機能が求められる」と解説した。

(本間 康裕=医療とIT)


【訂正】
本文第2段落冒頭の「浜松聖隷病院」は誤りで、正しくは「聖隷浜松病院」でした。また、本文第3段落冒頭の「新生診療情報センター」は誤りで、正しくは「新生医療情報センター」でした。お詫びして訂正します。


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