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大震災の現場から Vol.17
避難所でのインフルエンザ流行が始まる
被災地・気仙沼からの診療日誌 その1

2011/03/25
気仙沼市立病院呼吸器科 椎原 淳

 東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた宮城県気仙沼市。しかし、全国から集まった医師たちの支援を受け、地震発生から2週間が経過した現在、気仙沼市立病院をセンターとして被災者の健康状態をフォローする体制が構築されてきた。
 NMO編集部には気仙沼市立病院呼吸器科の椎原淳氏から、被災後の診療状況の報告を日々送り続けていただいている。地震発生後1週間余りの3月20日から24日までに送ってもらった、被災地の診療“日誌”を掲載する。


3月20日21:41
薬剤師のマンパワー不足で、抗癌剤投与にしわ寄せ

 気仙沼市立病院の本日日中の救急受診は87人。救急受診患者数はある程度計算できるようになっています。もちろん通常業務とまではいかないけれども、ライフラインは復旧し、医療資源も流通するようになり、院内ではそれなりの水準の治療を提供することができています。予想通り、救急受診患者、および避難所にいる患者さんたちの多くが、肺炎を中心とする感染症、喘息、肺血栓塞栓症などの内科疾患にシフトしつつあります。

 そして、ここ数日は地域の基幹病院として、治療の目を院外に向け始めています。具体的には病院への受診ができず、アラートを発信できずに体調を崩されている患者さんをピックアップすること、および薬剤がなくなってしまった患者さんに処方を行うことです。関東や東北のDMAT(Disaster Medical Assistant Team)と協力し、避難所を回り始めています。

 ただし現状では、大量の処方をさばく薬剤師のマンパワーが不足しているという問題が生じています。しわ寄せとして、ミキシングにマンパワーを要する抗癌剤の投与ができないという意外な事態に陥っています。


3月21日22:01
急患をフォローする三段構えの体制が見えてきました

 今日は東北大学からの応援医師と研修医の力に頼って、院内の管理をお願いし、お留守番を免除してもらいました。その代わり、横浜市立大学からの医療チームに帯同して、気仙沼地区でも最も壊滅的な被害を受けた地域の一つである、鹿折(ししおり)地区の避難所になっている鹿折中学校に行ってきました。

 気仙沼市立病院には現在、全国からの医師を核とするチームが20前後組織されていて、17地域の避難所に散って、診療に当たっています。地元の医者もスムーズな診療には必要なようで、本院の医師も可能な限りチームに合流し、院外での診察に従事しています。

 予想されたように診療ニーズの圧倒的多数は内科疾患となり、避難所では感冒も流行り始めました。1カ所の避難所ではインフルエンザの発生も確認しています。

 私が参加したチームの今日の主なミッションは、避難所の中学校に診療所を作り、患者をある程度集約することでした。

 市立病院をセンターとして、主な避難所に設けた診療所をサテライトとする。さらに、ガソリン不足の状況で遠方から来られなかったり、ADLが低いために診療所まで来られない人たちのヘルスケアを巡回という形でフォローする。この三段構えの体制のイメージが、ここ2~3日で見えてきました。

 急患に関してはこのようないい形ができてきましたが、市立病院のマンパワーの問題は依然として解決していません。一部の診療科を除き、通常の外来は始められないままです。


3月22日22:02
気仙沼は徐々に好転、ほかの地域が心配です

 連休明けの火曜日(今の状況で、連休も何もないような気はしますが)。「薬がなくなった」という大勢の患者さんに対応するため、今日は市立病院の医師のほとんどは院内に残って仕事をしました。

 震災直後の「薬が津波で流された」という要望に対し、3日分、5日分と処方し、状況がやや改善して1週間分と、処方期間を伸ばしてきました。連休明けはそれぞれの処方が切れて来院する患者さんがたくさんいて、院内はごった返し。院外での活動はほぼ、災害派遣チームにお願いすることになりました。

 夕飯のおにぎりをほお張りながら外科のリーダー格の先生と、昨日(3月21日)書いた、院外の患者に対応する三段構えの診療体制について話しました。市立病院を核として、避難所に設けた診療所をサテライトとし、避難所に来られない患者さんを巡回という三段構えの医療形態は、緊急事態で自然発生的に形づくられた形態なのですが、理想的な形で機能しつつあるということで意見が一致しました。

 この“美しい”形態をつくることができた理由として考えられるのは、まず市立病院がほぼ無傷で残ったこと、電気や医薬品の流通が震災後4日目くらいから復旧し始めたこと、東北大学をはじめ、災害派遣チームを全国から十分に派遣してもらえたこと。そして何より、市立病院の医師、看護師、スタッフが自らの生命の危機すら迫る中、輝きを失わず健康に働けたことが大きく寄与していると思われます。

 このように気仙沼市立病院では事態が徐々に良くなってきていますが、ほかの地域の病院の状況は人づてでしか伝わってきません。特に石巻赤十字病院が非常に厳しい状況に置かれていると聞くのですが、正確なところは分かりません。県や国が状況をどれだけ把握しているのか分かりませんが、より厳しい地域にヒト・モノを優先的に分配するシステムは果たして構築されているのか? 現場では心配なところです。

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