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もっと強く、「HELP」と伝えて!

2011/03/25

東日本大震災から2週間が過ぎた。テレビとパソコンの前で、身じろぎもせずにニュースを見て過ごした震災直後と違い、ほんの少しだけ落ち着いて物事を考えられるようになった。いまだに避難所にいる方々、家族や家を失った方々、放射線の影響におびえて暮らしている方々のことを思うと、心苦しくてうまく息さえできないような気がする。ご遺族と被災者の方々へ、心からお悔やみとお見舞いを申し上げたい。

 3月11日金曜の朝、テレビも付けずに朝食を取っていた私は、香港にいる義父母からのメールを見て日本で地震が起きたことを知った。「日本のみんなは大丈夫ですか。サヤカのお母さまはまだ日本にいるの?」。一時帰国で東京にいた母の安全はすぐに確認できたが、テレビで津波の映像を見て、頭の奥が麻痺してしまった。

 そのまま、いつも通りクリニックに出勤すると、同僚たちから繰り返し、「日本の津波の映像を見たよ。車とかが流されていたね」と言われる。「家族は日本にいるの?アメリカにいるの?大丈夫?」と聞かれ、「家族は日本にいるけど無事だ」と言うと、「じゃあ、良かったね」と言われた。「良くない!今でも瓦礫の下で埋もれている人が、波にのまれている人がいるんだ!」と言い返したかった。でもそんなことを言っても仕方ないことは分かっている。やるせなかった。

 医療で貢献するとしたら、どの団体を通せば東北へ行けるのか。Webで検索しても出てこない。知り合いにメールを出して聞いたが、答えはない。そんな中、「在米上級実践看護師(APN)とPAの会」のメーリングリストを通して、ボストンに住む在米上級実践看護師(APN)仲間である原田奈穂子さんが、仙台の病院を通して医療ミッションに行くこと、そしてほかにも行く人を募集している旨を伝えてきてくれた。すぐさまもう一人のナースプラクティショナー(NP)と、2人のフィジシャン・アシスタント(PA)が名乗りを挙げた。私も医療ボランティアに手を挙げようとしたが、夫や家族の反対などもあって実現しなかった。ちなみに2人のNP、PAは、支援のとりまとめを行う医師と相談した結果、仙台行きは4月以降になるという。

 それからは、色々入ってくる情報を仕分けし、他の人々へ回し、ブログに載せ、東北に向かうNP、PA仲間と連絡し合い、刻々と変わるニュースを聞いているだけで、週末が過ぎた気がする。在米日本人の間でも募金活動など、「できることで貢献しよう」という動きが高まっていた。

 週が明けても、仕事場で診療の合間にはインターネットのニュースを読んでいた。続いて大地震が起こる可能性があるというニュースを読み、放射線の被害が拡大しつつあることを知り、関東に家族のいる私はいてもたってもいられなかった。ニュースを一日中見ていると胸がどきどきしたり、痛くなったりする。「そうか、これがパニック障害の患者さんがいつも言ってることなんだな」と、患者さんの気持ちを初めて理解できた。

衝撃から感心へと変わった米国人の反応
 ニューヨークの私の周りの人たちの反応は、日を経るにつれ、衝撃から同情や感心に変わっていった。「原爆の悲劇を知っている日本が、また原子力の恐怖で苦しむことになるなんて」という同情の声を多く聞いた。

追悼式の様子。牧師だけでなく、僧侶や白装束の神主の方もいらしており、今回の震災が宗教を超えた、人類への打撃であることを思い起こさせた。

 また、多くの人が口にしたのが感心である。避難所でゴミが分別されている様子、被災地で列に並んで水を待つ人々、計画停電以外にも全国で自主的に節電が行われていることなどは、米国でも繰り返し大きく報道された。同僚の医師曰く「私たち米国人は野蛮人だから、こうはいかないわ」とのこと。私は日本人であることを誇りに感じた。自分の命と引き換えに働く原子力発電所の方々も、当然のことだがメディアで英雄として扱われていた。

 同時に、こちらの人々が恐怖にとらわれているのも事実だった。チェルノブイリの時でさえ、遠く離れたアメリカ本土に何の影響も与えなかったというのに、今回の地震の数日後には、ヨウ素の買い占めが横行して、ネットでさえ売り切れるところが続出した。ニュースでも米国への影響を議論している。

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著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にある病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

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