今回の東日本大震災は、東北地方を中心に大きな被害をもたらしました。亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、1日も早い復興を祈るばかりです。
私が勤務する施設でも、建物の一部が破損するなどしたため、3月11日の地震直後から安全を確保するまでの間、すべての手術を中止する措置が取られました。建物は間もなく修繕され、手術可能な状況になったのですが、現実には手術件数の総量制限を掛けざるを得ない状況に追い込まれました。
御存じのように、福島第一原発事故の影響で、関東地方では計画停電が行われるようになりました。当院は、現時点では計画停電の対象地域ではありませんが、鉄道や地下鉄などが運休したり運転本数を減らした影響で、通勤できない職員が発生し、手術を始められない事態が発生しました。
さらに、計画停電のために保育園が子供を預かることができなくなり、お子さんを保育園に預けているママさん麻酔科医を多く抱える当院では、出勤できない先生が増え、通常通りの麻酔がかけられなくなりました。
人的確保が困難になったばかりでなく、様々なモノが供給されなくなる危機にもさらされました。
まず、輸血です。被災地への輸血製剤提供を優先するため、関東地方での輸血が十分に準備できない可能性が通達されました。当科のように輸血を必要とする患者さんが多い科にとっては、まさに死活問題です。しかしながら緊急性、必要性の高い患者さんを優先すべき事態ですので、融通し合わなければなりません。
さらには、手術で使用する医療材料を製造している企業の多くが東北地方に工場を持っていることから、安定供給ができなくなる可能性があるとの懸念も浮上しました。そこで、人工血管や人工弁をはじめ、様々な医療材料の供給体制がどうなっているのか、企業に問い合わせたりしました。
今のところ、供給不足の事態にはなっておらず、手術中の停電に備え、できるだけ短時間で終了する手術を選んで再開しているところです。
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著者プロフィール
津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。
連載の紹介
津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。
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