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大震災の現場から Vol.18
ドクターカーを阻む、ガソリン待ち渋滞
青森県八戸市・八戸市民病院救命救急センターからの被災地報告 その7

2011/03/29
八戸市民病院救命救急センター・今明秀

 3月11日の東日本大震災の発生時、八戸市民病院救命救急センターで勤務に当たっていた今明秀氏。同センターはドクターヘリやドクターカーが配備され、災害派遣医療チーム(DMAT)として稼働できる部署。地震発生以降、どのような状況に直面したのか、今氏の許可を得て掲載する。

 八戸市民病院救命救急センターのスタッフブログ「青森県ドクターヘリ スタッフブログ」http://doctorheli.blog97.fc2.com/


ガソリンの給油待ちで渋滞中の八戸市内。

震災当日に盛岡へ向かってドクターカーで出動した八戸DMAT隊は、
2日目に大船渡病院で支援活動を行い、3日目の未明に八戸へ帰着した。

震災3日目、青森県ドクターヘリは県内で2回出動後、岩手県へDMATとして出動。
さらにこの夜、ドクターカーで第2陣のDMAT隊が久慈方面へ出動した。

そして震災4日目の朝。
ラピッドドクターカーのスタンバイ前の午前7時15分。
前日は私が当直する月曜日、急患で盛り上がったまま朝を迎えた。
相変わらず余震が来る。

ドクターヘリ通信司令室のテレビを、同じく当直の光銭医師と見ていた。
すると、ドクターヘリ通信司令室で常に傍受している消防無線から、気になる通信が聞こえてきた。
「場所は八戸○○、意識がない男性。救急○○出動、ドクターカー同時要請する」

私はERで、八戸消防への直通ホットラインの受話器を取った。
呼び出し音を聞く間もなく、消防通信指令室が応じる。
「八戸ラピッドドクターカー出動できます。場所は?…了解、これより出ます」
昨夜から当直の安部医師は、すでに準備を済ませていた。「お供します」

八戸ラピッドドクターカー1号RAV4は、赤いLEDとサイレンで出動した。
病院の正門を出ると、車の列が続いている。
普段ならばまだ車が少ない朝7時すぎ。車が渋谷の公園通りのように、両側に列を作っていた。
ほとんど動かない渋滞。こんなのは八戸で初めてだ。

病院前の通りは、200mごとにガソリンスタンドが並んでいる。
渋滞の原因は、ガソリンの給油待ちだった。

国道45号線はさらにひどかった。
片側2車線の道路が3車線になっていた。したがって路肩がない。
ドクターカーは、ウーウーとサイレンを鳴らして、拡声器で叫び、苦労しながら前進した。
八戸中の車の半分が、この国道に集まっているのではと思うほどの渋滞だった。

八戸市内の製油所も、津波や地震で被害を受けている。
ここより南の東北は全滅だという。
早く八戸の製油所が復旧してほしい。
早く八戸の港が復旧してほしい。
東北の正常化には、北の玄関口、八戸が鍵を握っている。

ドクターカーは現場到着、救急車に乗り移る。患者はCPA(CardioPulmonary Arrest;心肺停止)。
安部医師は気道確保、私は静脈ライン、救急隊はCPR(CardioPulmonary Resuscitation;心肺蘇生法)。
ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)を開始して、搬送。

・・・・

2件目のドクターカー出動も、午前中だった。患者はまたもCPA。
ガソリン完売のスタンドが目立つせいか、渋滞はずいぶん収まっている。

「声門が見えません。気管挿管が難しい」丸橋医師がうめく。
「それじゃ、ガムエラスティックブジーだ」
私は、青い救急バッグの「B」と書かれたポケットを開けた。「B」は呼吸の意味。
細長いガムエラスティックブジーを取りだして丸橋医師に渡す。
銀色の喉頭鏡を左手に、茶色のガムエラスティックブジーを右手に持ち、注意深く正中に沿ってブジーを進める。気管分岐部に当ってブジーが止まれば、うまく気管内に入った証拠だ。

「distal holdup sign(ガムエラスティックブジーは先端が固く、曲がった形をしている。ブジーが気管支に入ると咳が出たり、抵抗を感じる)です。気管チューブ進めます」丸橋医師。
うまく7mm気管チューブが入った。予想通り、痰が湧き出てくる。
患者にACLSを行いながら、八戸ERへ向かった。

八戸DMATは岩手へ救援に向かう。
もちろん、八戸も被災地だ。
八戸の医療をおろそかにするはずがない。
岩手も八戸も、両方救う。

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