*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号に掲載予定の記事です
被災者の5~10%が発症する外傷後ストレス障害(PTSD)。被災者ばかりでなく、過酷な業務に携わる救援者のPTSDも問題だという。
今後被災者の間で表面化してくるとみられるのが、外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)だ。生死の境をさまようような経験をして心的外傷を受けると、誰もが恐怖感や無力感を感じる。通常、時間の経過とともに恐怖感や無力感は自然と消えていくが、1カ月以上たってもそうした状態が続く場合、PTSDが疑われる。
PTSDは、心的外傷を受けた出来事などについて思い出したくないのに思い出してしまう「侵入」、音などに過剰に反応したり不眠になったりする「過覚醒」、出来事について考えることを避けたり、喜怒哀楽などの感情が麻痺したりする「回避・麻痺」の3つの症状を呈する。プライマリケア医がスクリーニングするには、3つの症状の有無を確かめる質問(表1)が有用だ。被災者の中でも、小児や女性、障害者や社会的弱者が発症しやすく、過去の自然災害での発症率は被災者のうち5~10%程度。
患者は、うつ病やパニック障害などを併発することが多い。PTSDの3つの症状に加え、そうした疾患を併発している患者に対しては、社会的支援に加えて薬物治療も考慮する。第1選択は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)だ。国内ではPTSDの適応で承認されている薬剤はないが、米国ではパロキセチン(商品名パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)がPTSDに対して承認されている。薬物治療は少量から始め、症状の改善が見られても少なくとも1年間は投与を続ける。自殺願望やアルコール依存症のある患者、食事摂取や生活維持が困難な患者は専門医への紹介が必要だ。
被災者ばかりでなく、救援者もPTSDを発症するリスクがあり、職種によっては被災者より高い発症率が認められている。自衛隊や消防、警察などの救援者は救援活動の中で心的外傷を受けるためだ。04年のスマトラ沖地震では、海に打ち上げられた遺体の回収などに携わった作業員の心的外傷が問題となった。東日本大震災でも救援者、特に遺体の回収や身元確認、原発事故対応などの業務に当たっている自衛隊員や警察官、消防隊員、自治体関係者などへの精神的ケアが求められる。
PTSDではないものの、テレビなどで被災地の映像を長時間視聴して、腹痛や頭痛、不眠などを訴えて医療機関を受診する患者も出ている。こうした患者には必要に応じて対症療法を行うとともに、意識的に腹式呼吸をするよう勧めたり、従来の日常生活を取り戻す、テレビの視聴時間を最小限にとどめるといったアドバイスをするとよいだろう。(談)