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【第7回】
震災で強いストレスにさらされている方にはこの漢方薬を

2011/04/04

 3月26日、市の一部が福島第一原発から30km圏内に入っている、福島県いわき市にある病院に、バスで救援資材を届けてきました。運んだのは医療物資のほか、米1トン、飲料水、レトルト食品など。東日本大震災が発生して2週間が経過し、私が週に一度漢方外来を行っている愛誠病院でも自発的に支援の動きが生まれました。

 行政や日本医師会などにも相談しましたが、震災があまりにも広範囲にわたっているためか、どこに行くべきか即答は得られませんでした。援助を行う旨を登録したのですが、現地に入れるのは4月中旬になりそうでしたから、まずは病院に直接電話をして、必要なものを揃えて持っていこうという話になったのです。最終的には、縁のあったいわき市の小規模病院に連絡し、資材を届けました。本当に喜んでいただけました。

 いわき市は一見するとゴーストタウンのようで、混んでいるのはガソリンスタンドだけで、給油待ちの車列は100台を超えていました。支援資材は郡山までは届いているものの、そこからは配達されないそうです。取りに行くにも片道70km以上もあっては、ガソリンがない状況では無理とのことでした。また、避難指示や屋内退避指示が出ているところは行政の支援がありますが、原発から30キロ圏を出るとほとんど支援されません。在宅酸素の業者も郡山にボンベを置いて帰ってくるそうです。

 これだけ広範囲で甚大な災害ですと、行政や日本赤十字社、医師会などですべてを把握することは難しいのでしょう。援助の幹となる部分は当然、大きな組織で行っていただき、そしてまだまだ支援が行き届かないような施設や地域には、各地の有志が対応するのが一つの方法と感じました。

 震災発生から2週間経過しましたので、電話やインターネットなどの通信網は回復しつつあるようです。全国の病院やNPOなどが被災地の各カ所に直接に連絡を取れば、必要な物資や援助を迅速に届けられるのではないでしょうか。この未曾有の大災害の支援はこれからまだまだ続きます。被災しなかった者が、被災した人々を助けるという、当たり前の支え合い精神でこの難局を乗り切っていけるものと信じて、そしてこれからも援助をしていきたいと思っています。

気持ちが晴れない人にはまず香蘇散
 日常生活に多少のストレスはつきものです。ところが、いつも以上の精神的ストレスが加わると、肉体的な変調が起こります。今回の震災で避難生活を強いられている方々は、想像を絶する大きなストレスを受けていると思われます。漢方薬がすべての人に対して有効とは限りませんが、避難生活を強いられている被災者の方々、また、今回の震災の影響でストレスを感じている患者さんの診療の際には、今回紹介する漢方薬を試してみていただければと思います。

 ストレスに対処する目的で、私がまず最初に処方する漢方薬は香蘇散(こうそさん)です。香蘇散は香附子(こうぶし)、紫蘇葉(しそよう)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうが)、甘草(かんぞう)の5種の生薬からなっています。味も良く、飲みやすい漢方薬です。

 服用すると気持ちが晴れますし、風邪の初期や魚のアレルギーなどにも効きます。これは、「衆方規矩(しゅうほうきく)」という江戸時代の漢方書の最初に出てくる処方で、私がもし避難所でストレスを訴える方にまず処方するとすれば、この薬でしょう。

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著者プロフィール

新見正則(帝京大外科准教授、愛誠病院漢方センター長)●にいみ まさのり氏。1985年慶応大卒。専門は末梢血管外科。98年帝京大第一外科講師、02年より同大外科准教授。10年より愛誠病院漢方センター長。

連載の紹介

【臨床講座】漢方嫌いだった外科医の漢方教室
西洋医学的なアプローチで十分な治療効果を得られないとき、漢方薬を使うとよい場合があります。現役外科医の新見正則氏が、“食わず嫌い”の医師向けに漢方の魅力とプライマリケアの現場で役立つポイントを紹介します。

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