*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号に掲載予定の記事です
「生か死か」─。津波が多くの命を一瞬にして奪った。沿岸部を中心に多数の病院が機能不全に陥った。全国から集まった医療者が支援に当たるも、医療提供体制の再構築には時間がかかりそうだ。
死亡者数1万1063人、行方不明者数1万7258人(3月29日時点、図1)。3月11日に起こった東日本大震災は東北から関東まで広範囲に影響を及ぼし、多くの犠牲者を出した。
「病院脇の川に(地震による)津波が遡上しているようです」
八戸市立市民病院(青森県)の救命救急センターに勤める千葉大氏は地震発生直後、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のFacebookのページにこうつづった。同病院は岩手県との境に位置し、八戸港からは4kmほど内陸にある。
同じく三陸沿岸に位置する岩手県陸前高田市や宮城県南三陸町などは、大津波で町全体が壊滅状態となった。
死亡者の約90%が溺死
「今回の地震は1995年に発生した阪神・淡路大震災と異なり、津波の被害が甚大だ」。両震災において救援活動に携わった兵庫県保険医協会事務局次長の小川昭氏はこう話す。阪神・淡路大震災では建物の損壊がひどかったが、東日本大震災では家屋が丸ごと津波に飲み込まれて跡形もない状況が各地で見られたという。
こうした特徴は、死亡者の死因にも見て取れる。千葉大法医学教室教授の岩瀬博太郎氏が陸前高田市の死亡者126人の死因を調べたところ、80~90%が津波による溺死と推測された。約80%が建物倒壊による圧死や窒息死だった阪神・淡路大震災と比較すると対照的だ。津波に巻き込まれることなく避難できた被災者には外傷は少なく、生死がはっきり分かれたことがうかがえる。
小川氏はさらにこう説明する。「阪神・淡路大震災では被災地から徒歩で避難しても、被害が少なく物資も豊富な都心になんとかたどり着けた。しかし、東日本大震災は被害が広範囲にわたる上、被災地と中核市はかなり離れており避難しにくく、救援物資も届けにくい」。