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特例の時間外労働の上限時間は年間1860時間に
医師の働き方改革の最終報告書が公表

3月28日の検討会の様子。

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の最終回が3月28日に開催され、報告書を取りまとめた。3月中旬に示された案から大きな変更はなかった。今後は、この報告書を基に詳細を詰めていき、2024年3月末までに医事法制の改正と労働基準法の省令が発出される予定だ。

 最終報告書は「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」と題したもの。(1)医師の働き方改革に当たっての基本的な考え方 、(2)働き方改革の議論を契機とした、今後目指していく医療提供の姿、(3)医師の働き方に関する制度上の論点、(4)おわりに――の4項目からなる。

 2024年4月から適用される罰則付き時間外労働の上限時間については、これまでに検討会で提示された案と同じものとなっている。具体的には、3つの水準に分け、診療従事勤務医(医療機関で患者に対する診療に従事する勤務医)に2024年以降適用される水準(A水準)の時間外労働の上限時間を年間960時間・月100時間(休日労働含む)、「地域医療提供体制の確保の観点からの特例(地域医療確保暫定特例水準、B水準)」と「一定期間、集中的に技能向上のための診療が必要な場合の特例(C水準)」をそれぞれ年間1860時間以下・月100時間未満とするものだ。

 B水準、C水準で働く場合は、最低限必要な睡眠(1日6時間程度)を確保するために、勤務間インターバルの確保や連続勤務時間制限などの追加的健康確保措置が義務付けられる。具体的には、「連続勤務時間」は28時間まで、「勤務間インターバル」は9時間(当直時は18 時間)と設定。時間外労働時間が960時間を超える初期研修医に対しては、1日ごとに確実に疲労回復させる観点から、「連続勤務時間制限」を15時間にする。

 「連続勤務時間制限」と「勤務間インターバル」を実行できなかった場合、(1)「代償休息」として、1日の休暇(8時間分)が累積してからではなく、発生の都度、時間単位での休息をなるべく早く付与する、(2)取得期限は代償休息を生じさせる勤務が発生した日の属する月の翌月末までとする――としている。ただしC1水準適用の初期研修医については連続勤務時間制限・勤務間インターバルの実施を徹底し、代償休息の必要がないようにする方針も明記した。時間外労働が「月100時間未満」の水準を超える前に、睡眠と疲労の状況を客観的に確認し、疲労の蓄積が確認された者については月100時間以上となる前に面接指導を行うことも義務付けた。

 なお、特例が適用された際に発生した過労死などの労災認定の取り扱いについては注釈が加えられ、「この取扱いは適用される時間外労働の上限時間数の違いによって変わるものではない」と明記された。

 今後、各医療機関は2024年4月までの5年間で自らの状況を適切に分析し、計画的に労働時間短縮に取り組んでいく必要がある。そのために各医療機関はまず、時間外労働の実態を的確に把握した上で、自施設に適用される上限時間がどれになるのかを検討し、時間外労働の短縮幅を見極め、なるべく早期に「医師労働時間短縮計画」を作成。PDCAサイクルによる短縮を図るとしている。なお、医療機関の努力のみによって労働時間短縮を達成できる場合ばかりではないため、都道府県は各医療機関の役割分担を含めた医療提供体制のあり方を考え、支援する。そのほかに地域医療提供体制の実情も踏まえ、医師の長時間労働の実態と労働時間短縮の取組状況を客観的に分析・評価する第三者的な組織・機関も設置予定で、今後検討される。

 また、2018年3月に発出された「緊急的な取組」(関連記事)で求めた項目が未実施である全病院を対象に、2019 年度中に都道府県医療勤務環境改善支援センターが個別に状況確認を行い、必要な対応を求めていく予定だ。

 なお、B水準が適用される施設の特定は、2023年度中に終了していることが必要。暫定特例水準の終了目標年限は2035年度末で、「医師偏在対策の実施状況等を踏まえて2035年度末目途に廃止することについて、検討を行うことを法令上明記する」と記載した。

 報告書では国民の医療のかかり方について、「今まで以上に医療に係る国民の理解や関わりも不可欠である。社会をあげてこれらを確実に実行に移していけるよう、厚生労働省をはじめとした行政の速やかな具体的対応を強く求める」と記載。「医師と国民が受ける医療の双方を社会全体で守っていくという強い決意が、一人でも多くの国民・医療関係者に共有されることを願って、本検討会を閉じる」と記した。

 今後は、医師の長時間労働の実態と労働時間短縮の取組状況を客観的に分析・評価する第三者的な組織・機関と、C水準の適用を判断する審査組織が検討される予定。また「宿日直」と「自己研鑽」については早くて4月にも発出される見込みだ。

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