世界はなぜ、盆栽に魅了されるのか

EUへの黒松輸出解禁と振興努力、JA香川県

盆栽の人気が海外で高まっている。日本を代表する産地の高松市。その輸出数量を見ると、2016年までの3年間は7000本前後で推移していたが、2019年には1万2800本まで急増。輸出相手は主に台湾だ。以降はコロナ禍の影響を受けるものの、明るい話題も多い。その一つが、新たに許可された黒松盆栽の欧州連合(EU)への輸出解禁だ。海外でも共通語として通用する「BONSAI」。世界はなぜ、魅了されるのか。

 高松市は松盆栽の国内最大の産地で、約8割ものシェアを握る。市郊外の鬼無(きなし)地区と国分寺地区を中心に約60軒の生産者が、黒松、五葉松、錦松などの苗木を畑で栽培し、時期が来ると鉢に移していく。名付けて「高松盆栽」。約200年の歴史を持つと伝えられる。

高松盆栽は苗木の時から人の手が関わっており、美しさの中に不思議な親近感があるといわれる
高松盆栽は苗木の時から人の手が関わっており、美しさの中に不思議な親近感があるといわれる

 海を渡るようになったのは、昭和50年代。以降、アジアや欧米を中心に受け入れが進み、「BONSAI」人気を押し上げてきた。2011年11月に地元で開催された『アジア太平洋盆栽水石(ASPAC)高松大会』には、28カ国・地域から延べ約7万6000人が参加し、人気の広がりを裏付けた。それに一層の弾みをつけるのが、「高松盆栽」の主力の一つである黒松盆栽の欧州連合(EU)への輸出である。

輸出に必要な検査への対応を支援

 EUは病害虫の防除を理由に、黒松盆栽の輸入を禁じていた。一方で黒松以外の盆栽は一定の検疫条件を満たした場合に限り、輸入を例外的に認めていた。「高松盆栽」は、海外への販路を狭められていたといえる。

 農林水産省は産地からの要望を踏まえ、EUの植物検疫当局と技術的な協議を重ねてきた。そして、ついに黒松盆栽も同様の検疫条件で輸出できるよう、EUは規則を改めたのである。

 輸出解禁は2020年10月。ただし、植物防疫所に登録した栽培地での連続2年間の栽培管理を求められたことから、多くの生産者にとって解禁即輸出とはならなかった。本格輸出に結び付くのは2023年以降と見込まれる。見方を変えれば、いまは飛躍に向けた助走期間だ。

高松盆栽の郷推進協議会 副会長 尾路悟 氏
高松盆栽の郷推進協議会 副会長 尾路悟 氏

 2022年6月、オランダ・アルメーレで開催された国際園芸博覧会「フロリアード2022」に足を運んだのは、鬼無地区で尾路旭松園(おろきょくしょうえん)を営む尾路悟氏だ。この博覧会は、参加国33カ国、来場者約200万人想定という大規模なもの。尾路氏はそこに、香川県盆栽生産振興協議会会長の立場で参加し、自ら栽培した黒松盆栽を展示した。

 「来場者の関心度は高かったですよ」。黒松盆栽への反応をそう口にする尾路氏。消費者の「BONSAI」需要の大きさを背景に、EUでビジネスを展開するバイヤーの間では、輸入解禁への期待感が膨らんでいるという。

 良し悪しを見極める「目」は、国内と変わらない。尾路氏によれば、それは「古さ」「樹形」「特異性」の大きな3つ。松盆栽の王者と言われる黒松盆栽では、とりわけ「特異性」、例えば幹肌のノリが重要という。

 「いくら古くても、幹肌のノリが悪いと評価されません」と尾路氏。樹皮が重なり層を成す――。黒松特有のその「特異性」が、「古さ」の象徴として好まれるという。自然と芸術の融合が生み出す美しさが、愛好家の目を引く。

 尾路旭松園では販売する約500鉢(1年間)の約7割が海外向け。最近はその多くをEU諸国に輸出する。黒松盆栽についても、検疫条件がEUに近かったトルコを念頭に植物防疫所に登録していたため、そこでの連続2年間の栽培管理という条件を満たし、すでに輸出に乗り出している。

 「黒松盆栽の輸出解禁は『高松盆栽』の生産者にとって、将来への活路を見出す良いチャンスです。EU諸国への輸出を念頭に置き、より多くの生産者が栽培地を植物防疫所に登録することを期待しています」(尾路氏)

 EUへの輸出を図ろうとする生産者にとって課題になるのは、検疫条件の一つである植物防疫所の年間最低6回の検査だ。尾路氏は打ち明ける。「検査のたびに必要な資料を作成する必要があります。検査を受けるだけでも、実は苦労が多いです」。

 そこを支援するのが、JA香川県である。検査は輸出に向けた検疫条件の一つとして求められるもの。その検査への対応を、JA香川県が支援してきた。JA香川県常務理事の北岡泰志氏は「黒松盆栽についてもこれまでと同様、生産者の検査対応を支援していく方針です」と、力強く言い切る。