新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新薬ゾコーバ(一般名エンシトレルビルフマル酸)に対する期待にはずいぶんと温度差があるようだ。メディア間でも期待度が異なるようで、「これでコロナも安心」と言わんばかりの絶賛記事もあれば、他方では「過剰な期待は禁物だ」と訴える報道もある。
「ここまで褒めちぎるか……」と僕が驚いたのは日経新聞の11月25日の社説だ。「自宅検査で(新型コロナの)感染の疑いがあるとわかった場合、医師が速やかに診断・(ゾコーバの)処方(を)する体制を国や自治体は整える必要がある」と、ゾコーバを国民全体が使用するのがあたかも当然のような論調だ。さらに、「(ゾコーバは)今年5月にできた緊急承認制度の初適用になった。コロナ禍のような感染症拡大の有事に薬やワクチンを迅速に審査する仕組みにもかかわらず、なぜ半年もかかったのか。塩野義が追加データを公表してからも2カ月を要した」と、まるで厚労省の怠慢でゾコーバの登場が遅れたかのような語気だ。
一方、毎日新聞は11月24日の記事で「効果薄い」という言葉をタイトルに含め、全ての医師がゾコーバ処方に積極的でないことを指摘している。
実際の処方はどうなのかというと、報道によれば12月12日の時点で既に全国で2600人の患者にゾコーバが投与されたようだ。だが、当院では本稿執筆時(12月25日)でいまだに「希望者ゼロ」だ。その一方で、パキロビッド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル)は大人気で、重症化リスクがあればほとんどの患者が希望する。今回はゾコーバとパキロビッド、そしてラゲブリオ(モルヌピラビル)の特徴を改めて比較し、当院ではなぜゾコーバが不人気で、ラゲブリオも希望されず、パキロビッドばかりが求められているのかを紹介したい。
初めに、極めて異例な経緯をたどったゾコーバ承認までの流れを振り返っておこう。
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著者プロフィール
たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。
連載の紹介
谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。
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